所報6月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ ちなみに浅野社長が故郷に戻ったのは、母親と一緒に暮らしていた長男が、税理士になるため、自宅を離れなければならない事情が発生し、兄に代わり、育ててくれた母親の面倒を見るためであった。 故郷に戻ったとはいえ、働く安定した職場もなく、それ故起業することを目的に雇用してもらい、2年後、計画通り創業したのである。以来37年間、一度も赤字を出すことなく、社員数も17人にまで拡大し、地域住民の評価も極めて高い企業となっている。 同社がこの間、地域住民の高い評価を受けつつ、着実に成長、発展してきた要因は、徹底した顧客満足度追求と、それを担う社員への思いである。 顧客満足でいうならば、「奉仕を先に利を後に……」という経営方針のもと、工事の大小や昼夜を問わず、顧客のもとにすぐに駆け付ける経営を持続してきた。一般的に、水漏れや詰まりなどは、大した金額にもならないため、業界では後回しにされるのが常であるが、同社の方針は、一番困っている顧客やお年寄りを、いつでも・どこでも最優先してきたのである。 さらに言えば、数年前から本業とはかけ離れた福祉用品の販売やレンタル事業に乗り出したが、これも金もうけなどではなく、この間頼りにしてくれた顧客が、一段と高齢化し、満足な介護や生活ができない人々がおり、見過ご 松山市内から車で1時間ほど走った愛媛県の西端に、八幡浜市というまちがある。人口は、昭和30年当時7万2000人を数えたが、その後、年々減少し、今や3万6000人とピーク比半減化し、その高齢化率も36%と、日本が2040年になるであろう高齢化率を先取りしたまちである。 このまちに、地域住民、とりわけ高齢者のライフラインを下支えしている小さな企業がある。その企業は「アサノ設備」という社名で、主事業は、給排水工事や住宅の増改築工事、さらには福祉用品の販売やレンタル事業、社員数は17人である。 同社の創業者であり、現経営者は浅野幸雄氏である。地元生まれではあるが、幼少のころに父親を亡くし、次男ということもあり、地元の学校を卒業した後、大阪の大手鉄鋼メーカーに就職した。そこで水道関係の部署で働いていたが、28歳で故郷に帰り、昭和54年、30歳のとき、今も一緒に働く社員1人を雇用し、2人でスタートしている。せなかったからという。 こうした徹底した弱者思いの誠実な経営姿勢は、次第に地域の強者からも高い評価を受けていった。 このような顧客満足度の高い経営ができるのも、浅野社長の背中と心で示すリーダーシップと、社員と家族思いの経営姿勢に、全スタッフが共感・共鳴しているからに他ならない。人口減が続くまちを支える『アサノ設備』vol.44コラムコラム16

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