所報7月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ57%を保有しているという。 同社の成長、発展の要因は多々あるが、その最大のきっかけは、楼会長が、この10年、業績追求から社員重視の経営に大きく舵(かじ)を切ったからである。楼会長は創業から10年、がむしゃらに業績を追求し、業界ではトップ企業に躍り出たが、従業員の離職率は年間50%、会社内に年々増幅していくギスギス感に困惑する毎日であった。 こうした中、楼会長は日本に「人本経営」を実践し、多大な成果を実現している中小企業があることを人づてに知り、北海道から九州まで「人本経営」実践企業を調べて歩いた。これら企業はいずれも5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)が行き届き工場内は美しく、ギスギス感がなく従業員も生き生きと、楽しそうに働いていることに驚嘆したばかりか、いずれの企業もその業績は安定的に高いことを知った。帰国し、この10年、日本で学んだ「5S経営」や「人本経営」を愚直一途に実践してきた結果、従業員の離職率は限りなくゼロに近くなり、その業績は右肩上がりになったという。 当日は、本社や工場内をくまなく見せていただいたが、企業内は5Sが行き届き、ごみ一つなかったばかりか、企業内で出会う従業員が全員、明るい声で私たちに会釈をしてくれた。より驚 大学院の留学生から、中国にも人、とりわけ社員を大切にする企業があると聞き、先般、訪問調査をしてきた。企業の名前は「双童日用品有限公司」、従業員数は約400人である。場所は浙江省の省都・杭州市から車で1時間半ほど走った、世界最大の軽工業市場である「義烏の福田市場」近くにある。 同社の創業は1994年、現会長の楼氏が奥さんと2人でスタートしている。創業当初さまざまな事業を行ったが、その中でも「ストロー」に着目し、今や売り上げの大半はストローである。苦労と努力が実り、ストローの年間生産量はなんと200億本、売上高は38億円、中国どころか世界最大級の企業にまで成長、発展している。 同社のストローは、価格競争に飲み込まれないよう、高付加価値のアイデア・ストローに特化していることもあり、従業員一人当たりの売上高は900万円とかなり高い。ちなみに同社は、ストロー分野で、世界の特許のかされたのは、本社の3階から7階のフロアが従業員の社宅であった。しかもその3分の1の部屋は、3世代同居の家族世帯であった。もっと驚いたのは本社の屋上階にはなんと畑があり、そこには四季折々の野菜が植えられていたのである。中国にもあった社員第一主義企業『双童』vol.45コラムコラム16

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