所報8月号
18/28

坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ この「朝茶会」は、早朝にお菓子を食べる会のことである。もう少し具体的に言うと、毎月1回(除く1月)、一日(ついたち)の朝6〜8時まで、つくり立ての「薄皮饅頭」や「季節のお菓子」をお茶を飲みながら味わい、参加者同士が気軽に会話を楽しむ会である。代金は無料で、お茶出しの接待は柏屋の心優しい社員さんたちである。「朝茶会」が開催されている場所は、JR郡山駅前商店街の一角にある「柏屋本店」の2階の「善」である。参加資格・条件は、「おはよう」「いってきます」の元気なあいさつだけである。「朝茶会」は昭和49年から42年間、欠かさず開催されている。毎回、本店の前には朝6時のはるか前から長蛇の列ができ、商店街の一大名物になっている。なお、参加者の大半は地域住民であるが、たまたま出張や旅行で商店街を通りかかった人もいるという。 本名社長は「朝茶会」の開催の目的を、「日本の家屋に縁側も井戸端もなくなってしまった今、地域の人々のコミュニケーションの場が提供できたら……という思いで開催しています」と話してくれた。 こうした柏屋の「朝茶会」開催の思いは、すでに十分すぎるほど地域住民に伝わり、そして住民の声に応えていると思われる一つのエピソードを、本名 福島県郡山市に「柏屋」という名の、和洋菓子の製造小売店がある。創業は嘉永5(1852)年で、現在、社員数は約420人である。現社長は5代目の本名善兵衛氏である。 企業は継続のために正しい手を打たなければ消滅してしまうが、同社は、全社一丸となってさまざまな困難を乗り越えた、なんと164年という長寿企業である。また、5年前には、東日本大震災や福島原発問題で大きな被害を受けたが、めげずに頑張り続けている。 柏屋の魅力は、1日に約12万個、年間で計算すると約4400万個も売れている、あの「薄皮饅頭」をはじめとしたお菓子のおいしさにあるが、より魅力的なことはその経営姿勢と思われる。創業以来、好不況を問わず、顧客・社員、そして地域社会への思いが、とりわけ強いのである。ここではその全てを紹介することはできないので、筆者が高く評価している「朝茶会」について紹介しよう。社長から伺った。それは、一人暮らしの高齢のご婦人の話だ。「ここに来ると、皆と話ができる。皆が優しい声を掛けてくれる。月に1回のこの『朝茶会』を、今か今かと心待ちにしながら生きています……」と、深々とお礼を言われたという。 いやはや、地域住民にとって、なくてはならない良い企業である。『柏屋』の地域社会への貢献vol.46コラムコラム16

元のページ 

page 18

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です