所報10月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。坂本光司法政大学大学院政策創造研究科 教授 学べに快進撃企業快進撃企業 福島市の郊外のロードサイドに、ペンション風の素敵な事務所がある。ここが「元気エネルギー供給企業」をキャッチコピーに掲げている、株式会社アポロガスの本社である。 同社は、LPガスや太陽光エネルギーの販売などのエネルギー関連事業と、住宅リフォームや水道工事などの住宅関連事業の2本柱が主事業である。今から45年前の1971年、地域の小規模企業4社のLPガス供給業者が、利用者満足度と将来の生き残りのためあえて合併し、設立した。なお、アポロガスという社名は、同社が設立する2年前の1969年は宇宙船アポロ人財の確保・育成により地域を支える『株式会社アポロガス』11号が月面着陸に成功した年であることから、どんな時代もチャレンジ精神を忘れない会社経営をしようと名付けられた。 設立以来、地域の支持を受け、ゆっくりではあるが着実に成長発展しており、現在、関連会社を含め社員数は約70人、年商は12,5億円強の規模である。同社のこの成長発展の最大の要因は、現社長である篠木雄司氏が言う「わが社の強みは人財」という言葉に尽きる。事実、同社の最大の魅力を利用者に聞くと、大半の人々が「素敵な社員ばかり」と言い、この言葉に集約される。ガス屋さんというより、サービス業なのである。 同社では、このため人財の確保・育成にことのほか注力している。人財の確保に関して言えば、求める人財像を明確に示している。ちなみに同社の求める人財は、「アインシュタインの言葉の実践者」である。アインシュタインの言葉の実践者とは、「人は周りの人々を幸せにするために生きている。感謝の気持ち、目配り・気配り・心配りができる、思いやりの感性を持った人を採用したい」ということである。 また入社希望者には、入社後の仕事以外の必修項目も明示している。例えば、社内のトイレや会社周辺の道路の清掃、親孝行レポートの提出、さらにはラジオパーソナリティーの出演などである。加えて言えば、内定者には雇用のミスマッチが無いよう、入社前に30日のインターンを経験させている。面接時、こうした会社の姿勢を聞き、辞退する学生も少なからずいるが、入社する社員はまさに理念共鳴型の「才と徳」を兼ね備えた人財である。 先日、篠木雄司社長から2011年に発生した東日本大震災とその後の福島原発事故当時の社員のエピソードを聞いた。それは多くの会社がこの地から撤退する中、社員に意見を求めると、ある女性社員は「私の顔を見ると安心するという、おじいちゃん・おばあちゃんを残して、私一人が避難するわけにはいきません……」と。また、ある中堅の男性社員は「一人で死ぬのは嫌だけれど、アポロガスの皆と一緒なら何も怖くない」と語る。同社がなぜ地域住民の高い評価を受け、成長発展してきたのかが良く分かった。vol.48コラム19

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