所報11月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。坂本光司法政大学大学院政策創造研究科 教授 学べに快進撃企業快進撃企業 先般、台湾・台北市の国際会議場で講演を依頼された折、台北市から車で40分くらい走った郊外にある「ディンタイフォン」という企業を主催者から紹介され、本社工場を訪問させていただいた。 同社の主な事業は、現在、世界14カ国に126店舗(2016年末には139店舗の予定)を展開するレストランで、この売上高で全体の95%を占める。残り5%はパイナップルケーキや月餅などのお菓子類である。社員数は1900人、売上高は日本円で約83億円である。驚くべきは近年の快進撃「台北市の人をトコトン大切にする企業『ディンタイフォン』」ぶりで、このおよそ20年以上、ほぼ増収増益経営を続けている。本社を訪問し、スタッフからその経営の考え方・進め方を詳細にお聞きするとともに、工場の視察や、その後、同社のレストランで食事をさせていただくことなどを通じ、その理由がよく分かった。 結論を先に言えば、それは業績やライバル企業との勝ち負けを追求した結果ではなく、筆者がよくこのコーナーで述べている「企業経営の目的・使命は企業に関係する5人の永遠の幸せの追求・実現である」を、正に愚直一途に実践し続けてきたヤン社長の人格・識見・能力といえる。 その経営の全てをここで述べることはできないが、例えば、社員に関して言えば、業界の平均正社員比率が10%程度の中、同社では何と90%である。しかも残り10%の非正規社員も、非正規社員の方からの申し出が理由だという。 さらに言えば、業界の平均の1.3倍以上の社員を配置し、一人一人の身体的・精神的負担を軽減させる経営を実践している。この結果、外食産業では日本でもあり得ない、社員1人当たりの所定外労働時間は月間1時間程度以下である。こうしたこともあり、年間離職率は2%以下、それどころか入社3年以上ではゼロという。ちなみに、同社の経営理念の1つは「社員とその家族を幸せにする……」である。 こうした社員満足度の高さは、社員の帰属意識や仲間を思いやる気持ち、さらにはモチベーションを飛躍的に高め、好循環経営が実現しているのである。事実、市内の同社のお店で筆者らが体験した接客サービスのレベルは、失礼ながら、「これが台湾の大衆レストランか?」と目を疑うような、感動を上回る、まさに「驚愕(きょうがく)・驚嘆」のサービスであった。 より驚かされたのは社会貢献の姿勢である。例えば、全社員の1年のうちの1日分の給与相当額を慈善事業に毎年寄付していることや、視覚障がいのあるマッサージ師を「あなたの仕事は仲間の社員の疲れを癒してあげることです……」と、あえて数人を正社員として雇用するほか、法定雇用率をはるかに上回る障がい者雇用に尽力している点である。vol.49コラム16

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