所報2月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。坂本光司法政大学大学院政策創造研究科 教授 学べに快進撃企業快進撃企業 福岡県北九州市・小倉駅から車で20分ほど走った産業用地の一角に、壁にカラフルな塗装を施した美しい工場がある。この企業はサンアクアTOTO株式会社といい、1993(平成5)年に第三セクターとして設立された企業である。一般的に第三セクターというと、まちづくりや地域活性化を目的に行政主導で設立され、そのトップも役所からの天下り人事が多い中、同社はこれらとは全く異なり、価値があるといえる。その特長はおおむね4点ある。 第1は、その設立が「地域に住み、働きたいが、働く場所のない障がい者の就労の場」を目的にしている点である。全国に第三セクターは多々ある障がい者に寄り添い、生かす『サンアクアTOTO』が、地域の障がい者に働く喜び、働く幸せを提供することを目的に設立・運営されているところはほとんどない。 第2は、同社が行政主導ではなく、弱者に優しい一民間企業が主導して設立された点である。一般的に第三セクターというと、行政が中心となり、その出資比率も圧倒的という企業が多い中、同社は資本金6,000万円のうち福岡県が1,200万円、北九州市が1,200万円であり、残り3,600万円は北九州市に本社を有するTOTO株式会社が出資している。それ故、現在同社の社長は3代目であるが、全て最大株主であるTOTO出身である。 第3は、これぞ同社の最大の特長であるが、障がいの度合いによらず多くの障がい者が雇用されているという点である。現在、同社にはTOTOからの出向者やプロパー社員を含め128人いるが、そのうちの83人、割合にすると64.8%が何らかの障がいがある。より驚くのは、83人の障がいのある社員のうち44人、つまり障がい者の半数以上が重度障がい者である。余談ではあるが、障がい者の法定雇用率の算出は重度障がい者はダブルカウントされるので、この式に従えば同社の実雇用率は何と99.2%となる。 そして第4は、ここで働く障がいのある社員が担う仕事である。現在の最大の仕事はTOTOブランドの水洗金具や給排水金具など約150種類の高度な機能部品の組み立て・調整である。聞くところによると、TOTOブランド商品の大半は同社で生産されているという。そのほかにも、TOTOの社員向け名刺や商品のチラシ、取り扱い説明書などをレイアウトから印刷まで一手に引き受けている。 先般、機会があって全国各地の中小企業経営者約25人と久方ぶりに同社を訪問させていただいた。職場環境もさることながら、障がい者一人一人の特長に合わせた生産ラインは見事であり、身体・知的・精神の障がいの度合いを問わず、全ての障がい者が自信に満ち満ちた顔と態度で私たちを迎えてくれた。 筆者はこれまで数多くの障がい者雇用企業を調査しているが、これほど障がい者に寄り添い、生かしている企業はそうざらにはない。多くの読者に訪問してほしい企業の一つである。vol.50コラム16

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