所報5月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。坂本光司法政大学大学院政策創造研究科 教授 学べに快進撃企業快進撃企業 佐賀県西松浦郡有田町は、伝統ある有田焼の産地である。400年以上食器や美術工芸品を中心としたものづくりが続いているが、近年では衰退傾向が著しく、今や事業者の数はピーク時の7分の1にまで減少してしまっている。業界の関係者の大半は、その衰退の原因を、焼き物離れ・低価格志向・プラスチック製品の台頭など、業界の努力を超えた構造的な問題と考え、待ちの経営を続けてきた。 こうした中、「需要は創造するもの」と15年前に異分野から有田焼業「伝統産業の革新に挑戦する   『佐賀ダンボール商会』」界にあえて参入した中小企業がある。それは、有田町の有限会社佐賀ダンボール商会という、従業員20人弱の企業だ。同社の元々の主事業は、社名の通り、ダンボール箱をはじめとする各種包装資材の製造だった。土地柄、取引先の多くは有田焼メーカーだったが、取引先の多くが衰退していく中、このままでは倒産してしまうと危機感を募らせ、ダンボールメーカーである同社が有田焼業界に参入したのである。苦節15年、今や同社の売上高の半分以上が有田焼製品であり、その業績も右肩上がりで増加傾向にある。 その立役者は現社長の石川慶蔵氏である。石川社長は地元出身であるが、PHP研究所の京都本部に長く勤務していたこともあり、松下幸之助氏の下で人として、そして経営者としての生き方を学んできた。妻の実家が同社であり、また同社が厳しい状況下にあったことから、後継社長として入社したのである。 石川社長は、改めて故郷の有田焼の美しさに魅了されるとともに、この伝統の技術を絶やしてはならない……と強く感じ、業界の本質的な問題は有田焼そのものではなく、創造する商品や提案の仕方と捉え、有田焼を活用した新商品づくりにチャレンジしていく。その折、松下幸之助氏に学んだ「衆知経営」の実践を試み、全国各地で活躍する著名なデザイナーや作家、さらには専門家を訪ね、自身の考える有田焼を利活用した新商品のアイデアを語り継いでいったのである。 こうした努力が実り、多くの専門家から共感を得ることに成功し、これまで存在しなかった有田焼の新商品が次々に生まれた。既に外部の専門家とコラボレーションして開発された新商品は120アイテムを超える。「有田焼万華鏡」や「有田焼時計」などが、その最大のヒット商品である。先日機会があって同社のショールームを見せていただいたが、そのコラボ商品の魅力には圧倒された。vol.53コラム16

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