所報6月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。坂本光司法政大学大学院政策創造研究科 教授 学べに快進撃企業快進撃企業 神奈川県横須賀市に、株式会社マエカワケアサービスという社名の、地域住民に優しい、良い企業がある。同社の主事業は福祉系である。これからますます必要かつ重要となるリハビリに特化した、デイサービスを中心とした訪問介護や整体学校を運営する。 創業は今から16年前の2001年、国立リハビリテーション学院を卒業し、そこに10年間勤務していた現社長の前川有一朗氏が脱サラし、妻と2人でスタートさせた。当初は治療院を運営していたが、翌2002年からは、より自分の専門を生かせ、地域住民のためになると考え、リハビリ専門のデイ「障がい者に働く喜び・幸せを届ける『マエカワケアサービス』」サービス施設の運営に取り組んだ。 「利用者の生活の中に希望と喜び、そして勇気を与えること」を経営理念に高らかに掲げ、この15年間、誠実に全社員一丸となって利他経営を実践してきた。そうした努力と苦労が実り、現在では神奈川県内に16カ所の介護施設を有するまでに成長発展している。 同社が顧客や地域社会から評価が高いのは、デイサービスの内容・レベルが抜きんでているだけではない。サービスを提供するスタッフの採用において、特別支援学校などを卒業しても就職先のあまりない、障がい者を積極的に雇用し、家族はもとより、障がい者の働く喜び・働く幸せに大いに貢献しているからである。 ちなみに社員は現在92人(正社員54人、非正規社員38人)で、そのうち12人が障がいのある社員である。加えて言えば12人のうち重度障がい者は10人であり、法定雇用率でカウントすれば22人、23.9%と法定雇用率の2%をはるかに上回る。 先日、前川社長から依頼され、同社の入社式と年度初めの経営計画発表会に参加する機会を得た。記念講演や経営計画発表会に先駆け、4月に入社した新規学卒社員3人の入社式があった。驚くべきは3人のうち2人が障がいのある新入社員であった。名前が読み上げられると、3人の新入社員は、全社員や新入社員の両親、さらには特別支援学校の先生たちからの温かい拍手で迎えられ、壇上に上がった。 そして前川社長から激励のあいさつや辞令交付が行われたが、その姿勢はまるで社員というより、新しい家族を迎えるような態度と話の内容であった。筆者が一番感動・感嘆・感銘したのは、前川社長が車椅子の新入社員に辞令書を渡すときの姿勢であった。背広姿の前川社長は、なんと両足の膝を壇上の床につけ、新入社員に目線を合わせ、優しい言葉をかけながら辞令書を渡したのである。その姿を間近に見て、筆者は胸が熱くなるとともに、なぜ同社が隆々と成長発展してきたかを完璧に理解した。vol.54コラム16

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