所報7月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。坂本光司法政大学大学院政策創造研究科 教授 学べに快進撃企業快進撃企業 磐田市(静岡県)の郊外に、「コーケン工業株式会社」という社員数約250人の中小企業がある。主事業は、農機具や建設機械、自動車などに使用される、各種パイプの製造である。 同社の強さの根源は、パイプの開発技術力はもとより、パイプ加工・切削加工・溶接、そして表面処理までの一貫した社内生産体制を保有している点や、生産本数が月1本とか、年間でも3本〜5本しかない「超微量生産」にも柔軟に対応できる生産・管理技術が卓越している点などである。それ故、同社商品の大半は、こんなことをしたいとか、こんな形状のパイプができないか……といった、多くの企業が嫌がる面倒なものである。 パイプの生産で今や著名な同社であるが、先般、同社は第7回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の中小企業部門では最高の賞である「中小企業庁長官賞」を授与された。それは同社の高い技術力を評価したものではなく、1971「日本一高齢者が活躍する『コーケン工業』」(昭和46)年の創業以来、既に45年以上にわたり、他社の模範となる「人をとことん大切にする正しい経営」を続けてきたことに対してである。 その全てをここに紹介することはできないので、その一つである、同社がこの間実施してきた高齢者雇用への取り組みを挙げる。現在、同社の社員250人中60人、率にすると24%が66歳以上の高齢社員である。ちなみに、現在の最高年齢社員は88歳の女性である。余談であるが、数年前までは93歳の女性社員が最高齢であった。同社の実質創業者である村松久範会長は、「わが社はまるでペンギン村だ……」が口癖である。 こうしたことができるのも、同社の経営理念が「全社員が物心ともに豊かに、健やかになる事を追求する。雇用の継続に努め、地域社会の繁栄に貢献する」であり、全社員が理念に基づいた言動を続けているからである。つまり、同社では、その人の生産性がどうであれ、その人が働きたいという意思がある限り、働くチャンスを提供しているのである。また若い社員もそうした正しい経営姿勢に共感・共鳴し、「チームコーケン」としての連帯感・絆が極めて強いからである。 先般、同社を久方ぶりに訪問する機会があった。広い工場には10代〜80代までの社員が、一丸となってまるで家族のように助け合いながら笑顔で生産に従事している様子を見て、筆者は心が満たされた。vol.55コラム16

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