所報9月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。坂本光司法政大学大学院政策創造研究科 教授 学べに快進撃企業快進撃企業 広島県の三原市に「株式会社八天堂」という社名で、社員数約100人の中小企業がある。主な事業はさまざまな種類のスイーツパンの製造販売である。とりわけ有名な商品は、3年の歳月をかけて研究開発をした読者の方々にもなじみのある「くりーむパン」である。 ちなみに主力の「くりーむパン」の生産数量は1日平均2万〜3万個、ピーク時は6万個を超えるという。より驚かされるのは、その全量が機械生産ではなく、手作りということである。業績もすこぶる好調で、過去10年以上売上高は右肩上がり、その利益率は10%以上という優良企業で「頑張るパン屋『八天堂』」ある。 規模が100人程度とはいえ、今でこそ知る人ぞ知る企業にまで成長発展したが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。それどころか、倒産の危機に瀕(ひん)したこともある。 その最大の要因は、創業者そして二代目と、まるで「年輪経営」のような経営を行ってきたが、三代目で現社長の森光孝雅氏が業績拡大を夢見て、売上至上主義的経営に走ったからである。新規出店のたび、規模が大きくなればなるほど、社員の離職率や欠勤率が高まるばかりか、会社の中に次第にギスギス感がはびこっていった。加えて、バブル経済崩壊の影響が一気に同社を襲ったからである。 この危機を救ってくれたのが、兄弟夫婦や残ってくれた社員、さらには知り合いのお客さまだったという。こうした方々の献身的な貢献で危機を乗り切れたこともあり、現社長は、これを機に、経営の考え方・進め方を現在のスタイルに抜本的に変えたのである。 現社長が根本的に変えたのは、業績第一主義ではなく社員第一主義経営であり、成長優先ではなく関係する人々の幸せ優先経営である。このことを口先だけではなく、その覚悟を示すため、新たにクレド(信条)の中に「八天堂は社員のために……」と明文化するとともに、経営理念を「良い品・良い人・良い会社つくり」と策定したのである。 そしてこのクレドと経営理念に基づき、働きがいのある会社づくりに全社員と膝を交えながらまい進していったのである。具体的には、「経営計画の全社員参加での策定」「経営の超ガラス張り化」「全社員の正社員化」「社員研修の制度化」「福利厚生の充実強化」、そして「新規学卒重視の採用」などである。 先般、「人を大切にする経営学会」で同社の広島空港近くの工場を訪問させていただいた。職場は活気に満ち溢れ、これがかつて倒産の危機に陥った会社なのかと疑ってしまうほどの良い会社であった。vol.57コラム16

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