所報8月号
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13コラム 今回の大震災は、測らずも日本の実力を浮き彫りにしたと言っていい。東北のサプライチェーン(供給網)が寸断されるや、世界中に生産停止の連鎖が広がった。日本の部品や素材がなければ、世界のものづくりが成り立たないことを証明したのである。 それと同時に、日本の弱点をもさらけ出した。高機能部材になればなるほど、その供給源をたどれば、ほとんど1社に集約されるという実態が明らかになったのである。すなわち、その1社がコケれば、世界の生産が止まるという構図である。 この構図に気付いた海外メーカーは、日本の部材に頼りすぎる現状を見直しつつある。調達先の多様化や分散化、代替品化の動きである。日本の高機能部材はブラックボックス化が進んでおり、オンリーワン企業も多く、一朝にして代替が可能とも思えないが、需要のあるところ供給ありだから、この「日本外し」には警戒を要する。一度世界の供給網から外されたら、復帰は不可能と言っていい。 無論、日本とてそんなことは百も承知である。そのためにサプライチェーンの復旧を急ぐとともに、供給拠点の複数化、分散化に取り組みつつある。もちろん、その視野には海外も入っている。今後、日本企業の生産拠点が海外へ移ることは避けようがない。大震災のあおりを受け、法人減税は見送られたし、環太平洋経済連携協定(TPP)も先送りされた。何よりも、電力不足が生産に暗い影を落とす。そうなれば海外移転と国内空洞化に、さらに拍車が掛かる。 しかし、空洞化は中小企業にとって大きなチャンスでもあろう。空洞は、誰かが何かで埋めなければならないからである。大企業の多国籍化が加速していく中で、その空洞を埋められるのは中小企業だけである。いまは大震災後の復旧・復興と原発事故の行方に目を凝らし、TPPの動向を注視しながら、チャンスをうかがうときであろう。 1930年東京生まれ。日本大学卒。55年に玩具メーカーを設立。急成長を遂げたものの、ドルショックと放漫経営がたたり77年に倒産。翌78年「倒産者の会」設立を呼び掛け「八起会」を起こす。「倒産110番(03―3835―9510)」を中心に、再起・整理・人生相談まで無料奉仕。著書に『修羅場の人間学』(東洋経済新報社)、『こんな社長が会社をつぶす!』(日本実業出版社)、『幸せをあきらめない』(致知出版社)、『家族の力』(祥伝社新書)など。野 口 誠 一(のぐち・せいいち)「 空洞化はチャンス 」八起会 会 長 野 口 誠 一COLUMNコ ラ ム

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