所報9月号
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13コラム 以前、当欄に「潮目の変化を見逃すな。そこはビジネス・チャンスの宝庫だ」と書いたことがある。今、まさにその潮目が変わりつつある。東日本大震災によって、政治スケジュールが大幅に狂ったからである。まずは、法人税減税が先送りされた。それどころか、復興財源として増税の可能性すらある。これでは国内企業の海外流出は避けようがなく、外国企業の日本進出も見込めない。 次に、TPP(環太平洋経済連携協定)が先送りされた。日本のFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)戦略は、周回遅れと言っていい。すでに韓国は米国に続いてEU(欧州連合)ともFTAを締結し、関税撤廃へ向けて大きく前進している。自動車や電機、電子など多くの分野で韓国と競合する日本企業は、輸出面において多大な不利益を免れない。それを回避しようとすれば、どうしてもFTA先発国へ進出せざるを得ない。すでに東レ株式会社は韓国へ炭素繊維の工場を移し、韓国から欧米へ輸出する態勢に入った。日本のTPPが遅れれば遅れるほど、こうした「脱日本」への動きに歯止めはかからない。 ほかにも、電力事情やサプライチェーン(供給網)の分散化など、日本企業が海外へ出ざるを得ない要因には事欠かない。となれば、空洞化にさらに拍車が掛かり、国内の雇用と成長が失われていく。これは大きな潮目の変化であろう。空洞化を食い止め、雇用を確保し成長を維持するには、内需を拡大するしかない。内需となれば、何かと小回りの利く中小企業の出番であろう。 ピンチはチャンスでもある。こうした動きは、急速に進んでいる。クールビズ関連業界は節電をビジネス・チャンスと捉え、いち早く多種多様な「スーパークールビズ」商品を売り出した。一方、小売り、飲食、教育関連サービス業界は、これまでとは異なる方法で集客を図るべく、さまざまな手を尽くしている。この小回りと足の速さこそ、中小企業が持つ最大の武器であろう。 1930年東京生まれ。日本大学卒。55年に玩具メーカーを設立。急成長を遂げたものの、ドルショックと放漫経営がたたり77年に倒産。翌78年「倒産者の会」設立を呼び掛け「八起会」を起こす。「倒産110番(03―3835―9510)」を中心に、再起・整理・人生相談まで無料奉仕。著書に『修羅場の人間学』(東洋経済新報社)、『こんな社長が会社をつぶす!』(日本実業出版社)、『幸せをあきらめない』(致知出版社)、『家族の力』(祥伝社新書)など。野 口 誠 一(のぐち・せいいち)「 潮目が変わった 」八起会 会 長 野 口 誠 一COLUMNコ ラ ム

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