所報10月号
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13コラム人は成功しようと思えば、(誰でも)忍耐と努力を強いられる。中小企業の経営者の場合、それが一生続くと言っても過言ではない。会社を維持、継続、発展させていくのが彼らの仕事だからである。徳川家康は「人の一生は重き荷を負うて遠き道を行くが如(ごと)し」といったそうだが、まさしく名言であろう。 私は常々、「倒産者は人の倍も3倍も忍耐・努力しなければならない」と戒めているが、そこには2つの意味がある。一つは、人の何倍も忍耐・努力して、一日も早く再起してほしい、と願うからである。もう一つは、謝罪と反省の意味においてである。言うまでもなく、倒産は多くの人に迷惑を掛ける。家族はもちろん、社員や取引先、金融機関など、多くの債権者に累が及ぶ。たとえ破産、免責になったとしても、その道義的責任は免れない。とすれば、謝罪と反省の心を込めて、人の何倍も忍耐・努力するのは当然であろう。 ところが、いつのころからか、そうした道義的責任を感じない倒産者が増えている。八起会の「倒産110番」にも倒産寸前です。何とか財産を残す方法はないでしょうか。有利な整理の方法を教えてください」とか、「財産を妻の名義にして離婚すれば、債権者に取られずに済むと聞きましたが、本当でしょうか」などという相談がひっきりなしである。 今にして思えば、大手銀行に公的資金を投入して救済したあたりから、モラルハザード(倫理欠如)が横行し、倒産者から道義的責任を奪ったようである。だが、世の風潮がどうあれ、忍耐・努力の継続が再起の条件であることに変わりはない。プロ野球の選手だってスランプに陥れば、「もう一度、体をいじめ直してきます」と言って2軍へ落ちていくではないか。まして、倒産者はなおさらである。 「汗なくして得るものなし」。中小企業の経営者にとって、忍耐と努力の「汗」は経営資源と言っていい。むろん汗は体だけではなく、心にも頭にもかくべきであろう。 1930年東京生まれ。日本大学卒。55年に玩具メーカーを設立。急成長を遂げたものの、ドルショックと放漫経営がたたり77年に倒産。翌78年「倒産者の会」設立を呼び掛け「八起会」を起こす。「倒産110番(03―3835―9510)」を中心に、再起・整理・人生相談まで無料奉仕。著書に『修羅場の人間学』(東洋経済新報社)、『こんな社長が会社をつぶす!』(日本実業出版社)、『幸せをあきらめない』(致知出版社)、『家族の力』(祥伝社新書)、『不況だから倒産するのか?』(佼成出版社)など。野 口 誠 一(のぐち・せいいち)「 汗なくして得るものなし 」八起会 会 長 野 口 誠 一COLUMNコ ラ ム

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