所報11月号
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13コラム 八起会は毎月一度「例会」を開く。会員が一堂に会する勉強会である。その目的はもちろん、倒産会員には一日も早い再起を、再起が叶った会員にはその経営が永続することを、切に願ってのことにほかならない。内容は、テーマを決めてディスカッションしたり、講師を招いて講義を受けたり、そして時には会員の体験発表も行う。先日もA会員に発表してもらった。 Aさんは建設業を営んでいたが、公共事業の激減で倒産を余儀なくされた。その過程で夜逃げし、うつ病にかかり、ホームレスに転落した。しかし、ある日「ガードマン募集」の広告に応募して採用され、コツコツと勤めあげること7年、ついに独立して警備保障会社を立ち上げた。Aさんはその経緯を克明に語り、最後を次のように締めくくった。 「私の会社は、この3年間で売り上げを3倍に伸ばしました。それでも、私の交際費はゼロです。かつて借金に苦しみながらも、見栄で交際費を使ったことが倒産を早めたからです。警備の業界も、ゴルフや夜の接待で仕事を取るのが通例ですが、私は交際費がありませんから、そういうことは一切していません。その代わり、毎朝4時に起きてゼネコンの社長や担当者にはがきを書きます。もちろん手書きです。月に100通以上は書きます。そこには、かつて自分が事業に失敗したこと、そして今はその反省の上に立って経営していることを正直に書きます。それが私の営業であり、トップセールスです。交際費ゼロでも営業はできます。会社の姿勢と経営理念を伝えることができるのです。わが社の社是は『三者の幸せ』です。三者とは会社、社員、顧客の三者です」 私はAさんのこの言葉に深い感銘を受けた。この言葉を全ての中小企業経営者に贈りたい。ここには失敗から学んだ真の経営哲学がある。三者の幸せ……何ものにも替え難い良い言葉である。 1930年東京生まれ。日本大学卒。55年に玩具メーカーを設立。急成長を遂げたものの、ドルショックと放漫経営がたたり77年に倒産。翌78年「倒産者の会」設立を呼び掛け「八起会」を起こす。「倒産110番(03―3835―9510)」を中心に、再起・整理・人生相談まで無料奉仕。著書に『修羅場の人間学』(東洋経済新報社)、『こんな社長が会社をつぶす!』(日本実業出版社)、『幸せをあきらめない』(致知出版社)、『家族の力』(祥伝社新書)、『不況だから倒産するのか?』(佼成出版社)など。野 口 誠 一(のぐち・せいいち)「 汗なくして得るものなし 」八起会 会 長 野 口 誠 一COLUMNコ ラ ム

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