所報6月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べな機能のある名刺なのではないか・・・などと考えるかもしれないが、それが理由ではない。事実、同社の 北海道札幌市の郊外に、「丸正日新堂印刷」という従業員7人の小さな印刷屋さんがある。主製品は各種チラシやパンフレットなどの印刷だが、近年、名刺の製作が急増している。 この3年間でみても、同社への名刺の製作の依頼は右肩上がりで、その数は月平均500〜700件に及ぶという。加えて、そのリピーター率もきわめて高く、3年間の平均で90%をはるかに上回っている。さらに驚かされるのは依頼者の分布で、地元の北海道は全体の2割程度、残りの8割は本州・四国・九州・沖縄だと言う。 こう言うと、価格が安いのではないかとか、特殊名刺の値段は1枚当たり20〜30円で、通常価格の2〜3倍だ。また、名刺には特殊な機能など一つもない。 ではなぜ、同社の製作する名刺が、かくも多くの人々に支持され、しかもその顧客が年々増加しているのだろうか。 その理由は多々あるが、簡単に言うと、名刺の素材へのこだわりと、弱き人々を思う気持ちが、心優しい人々の心を打っているからだと考えられる。同社がつくる名刺の素材は、バナナの茎やトウモロコシの皮、さらには廃棄されたペットボトルなどを再利用した「エコロジーペーパー」だ。これには、少しでも地球温暖化の防止に貢献したいという思いと、アジアやアフリカの貧困な人々の仕事づくりに貢献したいという強い思いがある。 ちなみに筆者も同社が全国から注文が殺到する名刺をつくる中小企業vol.03製作した名刺を使用しているが、台紙にバナナの茎が30%入った「バナナ名刺」だ。原料のバナナの茎はアフリカ・ザンビアの貧困な生活を余儀なくされた女性たちが手作業で加工し、日本に輸出している。 また、国内における名刺づくりも、デザイン以外の大半を障がいのある人々が就労している「作業所」に発注するとともに、売り上げの一部を盲導犬協会などに寄付し続けている。 つまり、同社の快進撃の最大の要因は、商品そのものではなく「世のため人のために・・・」という経営姿勢が、顧客の支持を受けていることにある。コラムコラム14

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