所報7月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ固定観念にとらわれず快進撃を続ける中小企業vol.04者が多い自動車学校」なのだ。大都市に立地するならともかく、この集客力は驚異的だ。 全国にはいわゆる「自動車学校」と呼ばれる事業所が約1400カ所ある。しかし、その大半は18歳人口の減少と若者の車離れの影響もあり、経営実態は年々厳しさを増している。事実、この5年の間に全国で約100校が廃校している。 では、全ての自動車学校が厳しい状況かというと、決してそうではない。その1つが島根県益田市にある「益田ドライビングスクール」だ。県都松江市から車で約3.5時間走った島根県西端の中山間地、人口5万のまちにある自動車学校は、正直、交通利便性から言えば、日本の中でも不便な所に位置する。 しかしながら、同校の近年の入学者は毎年6000人を超え、今や「日本一入学 では、なぜ益田ドライビングスクールは、多くの自動車学校が集客に苦労する中で、高い支持を受け続けているのだろうか。同校では、合宿教習を行い全国から教習生を集めているが、理由はそれだけではない。 それは、自動車学校という、これまでの概念やイメージを変えた点にある。一般的に自動車学校は、単に免許証を取得するための場所と考えられているが、同校では「人柄の良い運転手を育てる場」「生涯教育の一翼を担う場」と位置付け、「厳しいが楽しい・面白い・真に自分のためになると思わせる自動車学校づくり」に全スタッフが一丸となって取り組んできたのだ。 例えば、同校の施設内での買い物は「Mマネー」と呼ばれる独自の通貨しか使うことができないが、教習生は校内やトイレの掃除、洗車などのボランティア活動に参加すればMマネーを受け取ることができる。特に人気があるのがトイレの掃除で、終わった後は清々しい気持ちになるとの理由から、毎日のように参加する教習生もいるという。ほかにも、教習生が校内でお世話になった人に感謝の気持ちを記し、ポストに投函する「ありがとうカード」や、思いやりの心に触れてほしいとの願いが込められた「お茶席」などを通じ、全国から集まってきた教習生は仲間と濃密な2週間を過ごすのだ。 さらに、同校の敷地内にはたくさんの花や木が植樹され、四季折々の花が咲き誇っている。加えて、瞑想(めいそう)室・占い館・陶芸室・ネイルサロンまでも用意されており、自動車学校とは思えない充実ぶりだ。 こうした取り組みへの評価は、ほぼ毎日、敷地内で開催されている「涙・涙の卒業式」の光景を見れば良く分かるだろう。コラムコラム16

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