所報3月号
18/28

坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ900社。最大の取引先でも依存度は全体のわずか1%程度である。 まさに「多品種・微量」独立型の中小企業なのである。筆者はこれまで多くのモノづくり中小企業を訪問調査してきたが、これほど多くの企業と対等に取引している企業も珍しい。 その業績もすこぶる好調で、昭和19(1944)年の設立以来、一度も赤字を出していないばかりか、近年では利益率もほぼ10%以上である。ちなみに、全国の同業者は約75%が赤字、売上高経常利益率が5%以上の企業はほとんど見当たらない。 もとより、こうした盤石な経営は当初からではない。それどころか、現社長である渡辺良機さんが請われて社長に就任する前までは、どこにでもある下請け型のばね工場だった。 好・不況や円高のたびに繰り返される取引先からの理不 大阪市に「東海バネ工業」という社名の中小企業がある。従業員数は、全社で90人。生産品目は社名のとおり各種ばねである。ここまでは全国に約3000社ある、どこにでもあるような普通の「ばね屋」と思われるかもしれないが、その実体は、これがばね屋かと驚くべき企業である。 その代表的な特徴を2点述べると、第1は、同社の生産品目が極端な多品種・微量のばねであることだ。ちなみに同社が生産するばねの平均ロットは、3個から5個。しかも、その品種は年間ベースで3万アイテムである。つまり毎日が新しい仕事なのだ。 そして、第2の特徴は、取引先の多さだ。年間取引先は約尽な要求をなくさない限り、自分はもとより、従業員やその家族の幸福は創造できないと判断し、視察したドイツのばね屋をモデルに、時間をかけ、今日の経営体制をつくり上げたのである。 つまり、それを実現するために人財教育と福利厚生を充実させ、技術力を高めるとともに、他社がやりたがらないスーパーニッチの市場にターゲットを絞り込んだのだ。 同社の製品は、全て高度な技術がなければ開発生産できないばねであることに加え、数は微量、かつ短納期対応であり、まさに「鬼に金棒」といった企業である。 渡辺社長に「単価はどうやって決めているのですか?」と質問すると、答えは「こちらの言い値です」だった。「高いと言われ、値引きを要請されたらどうしますか?」と聞くと、答えは「では、よそでやってもらってください、と瞬時に断ります」とまで言い切った。 質問を変え、「仕入れ先・外注先への発注単価はどうしているのですか?」と尋ねると、渡辺社長は平然と、「提出された見積書どおり支払いをします。自分が散々嫌な思いをしてきたことを、外注企業にやるわけがありません」と答えた。言い値で部品を製造販売する『東海バネ工業』vol.09コラムコラム16

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です