所報3月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ位のサービスや、すでに30年前から黙々と実施している社会貢献活動が、顧客の心を捉えてきたためと思われる。 サービスでは、例えば、同社は小売店でありながら、美しい1階の売り場の中央部は、あえて「修理コーナー」としている。これは、「高額な眼鏡は、少々の故障で新品に買い替えることはありません」というメッセージである。いつぞや金井社長から心温まる良い話を聞いた。「新しい眼鏡の購入に来たお客さまに対し、『修理すれば十分使えますから』と、わざわざ修理コーナーに案内し、無料で修理をしました」と言う。 もう一つの社会貢献活動も賞賛に値する。「困っている人は、自分たちのできる限り助けてあげたい」を経営の原点に、同社ではさまざまな社会貢献活動をしている。その一つが、30年前から行っている海外難民への眼鏡の無償提供だ。これまでにタイ、ネパール、アル 北海道札幌市に「富士メガネ」という社名の眼鏡などの小売店がある。現社長の金井昭雄さんの父・武雄さんが昭和14年に樺太で個人商店として創業し、その後、終戦により北海道に命からがら引き揚げ、21年に現在地で再創業している。 「奉仕を先に利を後に」という、利他の経営が次第に顧客に評価されていき、今や社員総数は524人、売上高は77億円、そして店舗数も札幌・狸小路の本店をはじめ、北海道内や東北・関東地区に計69を有する企業にまで成長・発展している。 同社のこの間の成長・発展や好業績の要因は多々あるが、特筆すべきは、その顧客本メニア、そしてアゼルバイジャンなどに社員とともに出掛け、提供した新品眼鏡は12万本を超えるという。 しかも、それを無作為に配るのではなく、ボランティアで参加した社員とともに、一人一人の視力を測定し、最適品を選んでもらうというきめの細かさである。さらに、昭和62年からは、肉親探しのため日本を訪れた中国残留日本人孤児のために、宿舎に出向き視力の確認をし、眼鏡を寄贈し続けている。これまでに寄贈した眼鏡は900本を越えるという。富士メガネの繁盛の秘訣(ひけつ)の一つは、こうした熱心な社会貢献活動にあると言える。 ある中国残留日本人孤児からの感謝の手紙の一文を紹介する。「祖国はわれわれを見捨てなかった。眼鏡は日本でもらったお土産の中で一番うれしかった」「花や木がこんなにも美しいとは知りませんでした」難民を支援し続ける『富士メガネ』vol.10コラムコラム16

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