所報4月号
18/28

坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ提案してきたことなどもあるが、より重要な要因は、同社が掲げた経営理念と、それに基づく経営戦略、さらには創業者である鵜飼俊吾社長の経営姿勢が、関係者の支持を得ているからである。 同社の経営理念は「社員とその家族、そして仕入先とお客様を大切にする会社」とある。ブレまくっている会社が掲げる「株主第一主義」「成長第一主義」ではなく、同社は「社員第一主義」なのである。このため、創業以来43年間、社員とその家族や、仕入先の社員とその家族の命と生活を守る経営、つまり、景気や流行を一切追わず、じっくりと価値ある新商品開発に取り組んできたのである。 また、経営理念の最大の体現者である鵜飼社長の、この間の言動一致の経営姿勢も見事である。例えば、会社は「株主のもの、経営者のものではなく社員皆のもの」と宣言し、全員に入社1年目から株主になるチャンスを与えるとともに、隠し事の一切ない、超ガラス張り経営を貫いている。 そればかりか、同社では全員平等で、社長もタイムカードがあるばかりか、社長の交際費は実質ゼロ、加えてトイレの掃除当番まである。筆者はこれまで7000社近い中小企業を訪問調査しているが、社長にもトイレ掃除がある会社はそうざらにはない。 東京の神田和泉町にユニークな経営で知られる中小企業がある。社名は「昭和測器」、工場は八王子、主事業は振動計測装置、振動監視装置の製造販売である。 従業員数は26人という小さな企業であるが、携帯型振動計の分野では、わが国の60%のシェアを有するトップ企業である。下請経営を嫌い、創業以来一貫して研究開発型企業の道を歩んでいる。ちなみに26人の内訳は、開発技術者が8人、営業技術者が8人と、全従業員の約60%が技術者である。 その業績もすこぶる良く、多くの企業が赤字経営に苦しむ中、同社の近年の売上高経常利益率はおおむね10〜15%を持続している。そればかりか、ここ数年間で見ても、社員は夏・冬それぞれ2カ月分の賞与のほか、決算賞与が約1カ月分、なんと計5カ月分という。 こうした好業績を持続しているのは、次から次に社会的評価の高い新商品を世に ともあれ、こういった社長の背中で示すリーダーシップに社員は感動し、顧客を感動させる価値ある商品を創ろうと努力してきたのである。 こうした元気な中小企業の存在を見せつけられると、問題の大半は「外ではなく内」、とりわけ経営者の心と背中にある、と言わざるを得ない。 創業以来43年黒字経営を続ける『昭和測器』vol.12コラムコラム16

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です