所報6月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ 同社の評価がとりわけ高いのは、その驚異の高業績である。周知のように、わが国の法人企業約280万社のうち、今や赤字企業比率が約75%、売上高経常利益率が5%程度あれば優良企業、それが10%程度以上あれば超優良企業といわれているが、同社の業績はけた違いである。 例えば、最新の平成24年度の決算書をみると、売上高が24億円、経常利益が5.2億円となっている。つまり売上高経常利益率は何と27%である。ちなみに、当社が創業した昭和45年から平成21年の間は、売上高経常利益率は全て40%以上であった。さすがに、リーマンショックの影響は大きく、平成22年は22%、23年は29%、そして24年は27%と、それまでと比べると落ち込んだが、それでも依然20%以上を持続しているのである。 長い企業の歴史の中で、ラッキーな要因が重なり、1回や2回、同社のように売上高経常利益率が20%前後以上になったことのある会社は少なからず存在する。しかしながら、同社のように、すでに40年以上にわたり、それが20%以上を持続している会社など、筆者は見たことも聞いたこともない。おそらく日本一の高収益企業といっても過言ではない。 東京都府中市に本社、山梨県韮崎市に一貫生産工場を有する「エーワン精密」という社名の企業がある。従業員数は100人強の中小企業であるが、コレットチャックやカムの製作、工具の再研磨を行う企業として業界では著名なモノづくり企業である。 創業は昭和40年、現相談役の梅原勝彦氏が31歳のとき、1人でスタートした。同社のビジネスモデルは、顧客から特注のコレットチャックやカムを作ってくださいという図面がくると、それをわずか1〜2日で作り上げ、全国に宅配便で納入する。工具の再研磨は、顧客から依頼がくると、やはり瞬時に加工し、これまた宅配便で納入する。数量は、ほとんどが1〜2個、納期もほとんどが今日依頼され、明日・明後日に納入という注文である。まさに多品種・微量・短納期生産である。 同社のこうした高収益の最大の要因は、創業経営者である梅原氏が、社員とその家族の命と生活を守るための経営を一貫して実践してきたからである。 梅原氏はその思いを「創業前、散々下請けの悲哀を見てきたので、自分で経営するときは、嫌な思いをしない・させない経営をやらねば」と誓ったという。日本に残るモノづくり企業の1つのモデルである。好業績を持続し続ける『エーワン精密』vol.13コラムコラム16

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