所報8月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ過した今、お店は1店舗ながら、その業績はなんと65年連続増収増益なのだ。 同社がこれほどの長きに渡り好業績を実現し続けている要因は、景気や流行を一切追わない経営の考え方・すすめ方も大きいが、もう一つは顧客、とりわけ地域密着の経営にあると思われる。 より具体的に言えば、地元農家と連携した素材づくりや、地元住民の幸せづくり・絆づくりのための「夢ケーキづくり」だ。ちなみに同社のお菓子の素材であるブルーベリーやイチゴ、牛乳、卵など、大半の素材は地元農家との連携素材だ。 もっとはっきり言えば、農家と一緒になって、お客さまが感動・感嘆・感銘するような、身体にいいお菓子をつくっている。そればかりか、もしも気候などで農家の生産量に大きな変動があった場合、お菓子の開発や生産で調整し、農家の生活費を支援しているという。 もう一つの「夢ケーキづくり」も表彰ものだ。これは、地域の子どもたちに将来の夢を家族と相談しながら絵に描き菓匠Shimizuに送ってもらい、その絵のケーキを同社の工房で、家族皆で菓子職人のアドバイスを受けながらつくるというもの。目的は「ケーキづくりを通じ家族団らんのお役に立ちたい、子どもたちに夢を持ってほしい」からだ。 その日は1年に1回で8月8日、当日 近年、大規模なショッピングセンターやGMS(総合スーパー)の出店、さらにはブランド力の高い全国チェーン店の攻勢などが相まって、地方のいわゆるお菓子屋さんの業況は総じて厳しい。事実、事業所・企業統計調査で「菓子・パン小売業」の動向をみると、このわずか10年間でも3万5000店舗、率にして30%のお店が消滅している。 では、地方の小規模な「菓子・パン小売業」は皆ダメかというと、決してそうではない。その一つが「株式会社菓匠Shimizu」。お店の所在地は長野県伊那市、社員数は32人だ。 創業は昭和22年、現社長である清水慎一さんの祖父・正人さんが、現店舗の近くで、夫婦で和菓子屋としてスタートした。現在の主力商品は洋菓子だ。 創業以来、「奉仕を先に利を後に」というモットーで、流行や景気を一切追わない「石橋を叩いて渡る」ような、堅実経営を続けている。この結果、65年が経「夢ケーキづくり」に参加する子ども(家族)は年々増え続け、今や約1000組という。しかも、無償なのだ。家族皆でつくり終え帰るとき、涙ぐむ家族も少なからずいるという。 こうしたお菓子屋さんの存在を知ると、「正しい経営は決して滅びない」と再確認できるとともに、「利他の経営」こそ、時代が求めている正しい経営と思えてならない。創業以来65年間、堅実経営を続ける菓匠『Shimizu』vol.15コラムコラム16

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