所報2月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ具体的に言えば、生まれつきの障がいや、病気・ケガ・事故などで、手や足、あるいは指・耳・鼻・顎・乳房など体の一部を失ってしまった人に、それを一品一品、全て手づくりで提供している企業である。 創業は今から約40年前、アメリカで義肢・装具の製作を学んだ現社長の中村俊郎さんが帰国し、廃れ行く生まれ故郷を何とか再生したいと、あえて大森町に戻り、たった一人で始めた会社である。創業当初こそ、認知度はもとより、市場も熟しておらず苦労の連続であったが、「困っている人々を助けてあげたい」とめげずに価値ある商品づくりの努力を続け、今やこの分野では知る人ぞ知る中堅企業にまで成長発展している。 当日は中村さんから、弱き人々に対する強い思いと、国内外で取り組んでいる数々の社会貢献活動などのエピソードを聞き、一同涙した後、同社の「メディカルアート研究所」と呼ばれる、まるで自宅のような温もりのある素敵な工房を見学させていただいた。 そこでは、若い社員が手間暇のかかる実に面倒な作業を、手元に置いた患者さんの写真や名前を見ながら黙々としていた。指をつくっていた素敵な女性社員に仕事の苦労や感想を聞くと、「一日も早く素敵な指をつくって患者さんに喜んでほしい」「患者さんからのお礼の手紙を読むと、もっといい仕事をせねばと励ま 先般、筆者が顧問を務める「神田経営者クラブ」(中小企業経営者の異業種交流会)のメンバー約20人と一緒に、島根県大田市大森町に行ってきた。大森町といっても読者の多くはなじみがないと思われるが、出雲空港から西へ1時間半ほど車で走った所にあるまちである。より分かりやすく言えば、世界遺産に登録された「石見銀山」の麓にある、人口約400の小さな山間のまちである。 なぜ、こんなにも交通が不便な中山間地域の小さな小さな過疎のまちをわざわざ訪ねたかというと、ここに「人、とりわけ困っている人を幸せにしたい」という理念を高らかに掲げ、日本中いや世界中から顧客や入社希望者が殺到する「いい中小企業」があり、こうした頑張る企業の存在を中小企業経営者に頭ではなく、自分の目と体で知ってほしかったからである。 その会社は「中村ブレイス株式会社」といい、主事業は義肢・装具の製造、よりされます」と、仕事に対する使命感や充実感に満ち満ちた顔で答えてくれた。 そこには、会社の業績や経営の効果・効率を飛躍的に高めようなどといった、会社の側に立っての言動は一切なく、ただただ「困っている顧客(患者)を喜ばせたい、幸せにしたい」といった態度であった。 こうした企業が多数派になれば、わが国は世界の人々から尊敬されるようになるだろう。人を幸せにする会社『中村ブレイス』vol.19コラムコラム16

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