所報4月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ 同社が開発した商品は数々あるが、特に有名なのは「缶入りパン」である。きっかけは平成7年の阪神・淡路大地震の折、自分たちが持っていったパンを支援のためにと無償で提供しても、被災者がお腹を空かせているにもかかわらず、賞味期限切れで廃棄されてしまう現実を見て、開発に取り組んだのである。 通常のパンづくりの傍ら、約1年研究開発に没頭し、ついには防腐剤や添加物を使わずとも賞味期限3年という驚異の「缶入りパン」の開発に成功した。ちなみに先日、筆者は縁あって同社を訪ねた際、秋元義彦社長から3年前につくった缶入りパンを試食させていただいたが、その味も柔らかさも、なんら劣化しておらず、つくり立てのパンのようにおいしく味わうことができた。 とはいえ、この缶入りパンが市場の評価を得るまでは、約10年の歳月を費やしている。それは値段もさることながら、来るか来ないか分からない災害対策の投資を多くの企業や個人が長らくためらっていたからである。 しかしながら、その後、国内はもとより世界各地で巨大地震が相次いで発生していることもあり、近年は自治体や企業に非常食として高く評価され、今やなくてはならない備蓄食として定着しつつある。 東北新幹線の那須塩原駅で下車し、そこから車で5分ぐらい走った場所にユニークな経営で有名な「パン・アキモト」という、社名のとおり各種パンの製造小売りをする中小企業がある。従業員数は48人、年商は約5億円である。 全国にはいわゆるパン屋さんが約1万4500件ある(平成19年度商業統計)が、その業況は総じて厳しい。事実、統計を見るとその10年前、全国にはパン屋さんが約2万件も存在していたが年々減少し、わずか10年間で5000件以上、率にして約30%のお店が消滅してしまったのである。 こうした中、同社がゆっくりとはいえ確実に成長発展しているゆえんは、新商品開発力と経営姿勢、とりわけ20年前から全社的に実施している社会貢献活動を顧客の多くが支持しているからと思われる。 同社の経営がより高く評価されるのは、「救缶鳥(きゅうかんちょう)プロジェクト」という名のボランティア活動だ。これは、前述の賞味期限3年の缶入りパンを、購入者の理解と協力を得て2年後に低価格で買い戻し、世界の飢餓で苦しむ人々に無償で提供する事業である。いやはや驚くべき弱者に優しい、いい中小企業である。震災を契機に、新商品開発を進めた『パン・アキモト』vol.21コラムコラム16

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