所報7月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ その後も、海外修業したり、著名なお菓子屋さんに招かれたりして、菓子職人として働いていたが、36歳の時、サラリーマンの限界と、理想のお店をつくりたいとの思いから独立開業している。苦労の連続であったが、前へ、前へ……という努力が実り、現在の売上高は20億円、従業員数は正社員90人、パート社員は160人、計250人という、業界では有数の規模にまで成長発展している。 驚くべきは、路面店は本店1店舗のみ。あとはテナント店が大丸百貨店の梅田店と神戸店の2店舗があるだけにも関わらず、20億円もの売り上げがあることである。なお、その内訳は、本店が10億円、百貨店が10億円だ。しかも、甲陽園にある本店は店舗面積がわずか17坪。いかに繁盛しているかが容易に想像できる。 繁盛の秘訣は多々あるが、ここでは2点のみ指摘しておく。第1点は、素材への徹底したこだわりだ。多くの菓子店は、その使用する原材料を外注に頼っているが、当店ではバターもジャムもチョコレートも使用するほとんどの原材料が自家製、しかも手づくりである。また、使用する牛乳や栗などは、こだわりの農家に委託生産し、その牛乳は放し飼いの乳牛からとこだわっている。さらには使用する水も、紀伊半島のある洞窟から湧き出る、最高の水を使用している。こうしたお客様に本当にいいものを食べてもらいたいという強い思いと、努力が本物志向の全国の顧客の高い 経済センサス(2012年)によれば、全国に「菓子小売店」は約3万7000あるが、今や店舗数は、「コンビニエンスストア」や「総合スーパー」、さらには「食品スーパー」などの攻勢もあり、20年前の半分近くまで激減している。こうした競争の厳しい業界ではあるが、全国各地をこまめに歩いてみると、顧客の高い支持を受け全国チェーン店がかなわないと高い評価をしている「菓子小売店」も多く存在する。 そのうちの1社が、兵庫県西宮市に本店がある洋菓子製造販売の「有限会社ツマガリ」だ。創業は、今から28年前の1986年。現社長の津曲孝氏がそれまで勤務していた有名菓子店を退職し、奥さんと二人でスタートしている。津曲社長は、宮崎県の貧しい農家の出身で、家計を助けるため15歳で上京した。最初は倉庫の荷役作業員として働き、その後、知人の勧めもあり、17歳で洋菓子店に就職。現在の基礎を築いている。支持を集めているのである。 第2点は、ギフト菓子重視の経営だ。創業当初は、生菓子のみを製造小売りしていたが、商圏の拡大に限界を感じ、当時地域にはあまりなかったギフト菓子に主事業を転換。独自開発した通信販売ソフトを活用し、販売を全国各地に拡大していった。その結果、今や総売り上げに占めるギフト菓子の比率は約90%にまで達している。顧客の高い支持を受け、頑張る『ツマガリ』vol.24コラムコラム16

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