所報10月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ中でも特出した「いい職場」である。 こうした施設になり得たのは、創業者で、現在理事長を務める竹村利道さんの存在がある。竹村さんは大学卒業後、高知市内の病院でソーシャルワーカーとして勤務した後、障がい者の受け皿をつくる必要性を強く感じ、市の社会福祉協議会に転職している。ただ、ここでも働きたいが働く場がないという悲痛な声を毎日のように耳にしながら、どうすることもできない行政に対し、限界と怒りを感じて退職。その後、障がい者の働く場として「手づくりパンを売る店」を一人で立ち上げている。 しかしながら、「このパンは障がいのある人が心を込めてつくりました」という、いわば障がいを売り物にしたようなビジネスであったこともあり、スタート時こそ関係者が来てくれたものの、日を追うごとに客足は遠のいていった。この時期にはかつてない挫折感を味わったという。その後、勉強を重ね、「障がいを売り物や言い訳にしない」「徹底した品質とサービスの追求」を新たな経営方針に掲げ、再スタートしている。その上で、あえて福祉関係者や知人を避け、一般の人々をターゲットにするとともに、現場のリーダーにも「障がい者に詳しい人」を配置しなかった。さらに、一人ひとりの個性を見極めて工程を細分化し、改善に努めるとともに、どうしてもできない作業は、極力機械化していった。 今日でこそ、わが国を代表する「障がい者多数雇用先進企業」として高い評価を受けているが、ここまでの道のりは「命がけだった」と竹村さんは語る。 高知県高知市に「ワークスみらい高知」というNPO法人がある。現在約180人が働いているが、何とそのうちおよそ120人は障がい者である。内訳は雇用契約のある「就労継続支援事業A型」に約50人、雇用契約のない「就労継続支援事業B型」に約20人、一般就労を目指し、トレーニングを行う「就労移行支援事業」に約30人などである。 現在は、ケーキの製造販売、飲食店の経営、弁当の製造販売、カフェの経営などの福祉事業所の経営をしており、その全てが地域で高い評価を受けている。その一つである高知市の中心商店街にある「ひだまり小路・土佐茶カフェ」は、おいしいお茶の入れ方・飲み方から教えてくれるすてきなお店で、いつ行っても繁盛している。ちなみにこの店で、お茶の入れ方・飲み方を教えてくれるスタッフは、ほぼ全員が障がい者だ。 こうした施設で働く障がい者の給料(工賃)はというと、全国平均で1万3000円前後であるが、同法人のそれは、全国平均をはるかに上回っている。全国に数ある障がい者就労施設の余談であるが、先般、筆者が理事長を務めるNPO法人の総会の記念講演で講師として竹村さんをお招きし「障がい者を自立させるために自立する」というテーマで講演をいただいた。その内容は福祉機関の関係者ばかりか、一般企業の関係者を大いに触発し、福祉の在り方に一石を投じるものであった。障がいを言い訳にしない『ワークスみらい高知』vol.27コラムコラム16

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