所報3月号
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原油価格が、現在の国際原油市場で形成されている先物価格に沿った動きをするならば、来年の今頃は押し上げ要因に変わることになります。原油価格の先行きは依然不確実な要素も大きいですが、目標の2%の物価安定目標の達成に2015年度後半は近づくことも十分想定できます。 企業規模(大企業、中堅中小企業)や業種(製造業、非製造業)の違いによって、原油安や円安が及ぼす影響は異なるのでしょうか。日本銀行の試算によれば、前提によって結果が異なるので幅をもって見る必要はあるものの、原油安については、大企業にも中小企業にも、製造業にも非製造業にも広くメリットが及びます。一方、円安は、大企業・製造業が最も大きなメリットを受け、非製造業については、デメリットの方が大きくなっています。家計においても、原油安はメリットがあるものの、円安は輸入物価高からマイナスの影響となります。すなわち、原油安は、どの経済主体においてもメリットが大きい一方、円安はメリットが大企業・製造業に偏在しがちといえそうです。 そうした中、安倍総理は収益が上がっている大企業を中心に今春の賃上げを要請していますが、労働分配率で見ると、大企業は過去15年間のボトム圏にあり、引き上げの余地は確かにありそうです。春以降の景気をみるうえで、賃上げは注目ポイントであることは間違いありませんが、収益の使い方は必ずしも賃上げに限る訳ではありません。設備投 賃金の動きを企業規模別に見ると、従業員が500人以上の大企業では4%を超える上昇となっており、消費税率の引き上げ分を超える賃上げとなっています。一方、従業員数が5人から29人の企業でみると横ばい圏内に止まっており、企業規模によって改善のペースに差があることは否めません。今春の賃上げについても、私が県内の経営者の方からお聞きしている範囲では、収益の改善はボーナスで還元し、ベアまでは考えていないという方が特に中小企業では多くなっているようです。収益環境は当県中小企業でも底堅いとみていますが、好調な輸出型の大企業が集積している東海圏ほどの賃金の伸びは当県では期待できないかもしれません。 政府はデフレを脱却し、実質経済成長率2%を持続的に達成することを目標にしています。そのために、政府は女性の活用推進を掲げ、2040年にはスウェーデンを上回る女性の労働参加率を目標にしています。忘れてはいけないのは、仮にそれが実現してもなお、2040年の労働人口は現在と比べて約500万人減少することです。経済成長をもたらす要因は、「労働力」「投資」「生産性の向上」の3つに集約されます。これは、工場の生産を増やす手段に「人を雇う」「機械を導入する」「カイゼン運動などで生産プロセスを見直す」があることに似ています。今回は、投資と生産性の向上をまとめて「労働生産性」と考えます。デフレ期に当たる1995〜2013年度の日本の経済成長は年率で0・9%でした。これは、労働力が0・1%減った一方、労働生産性が1%上昇したため、差し引き0・9%の成長となったものです。バブル期を含んだ長期(1980〜2013年度)で見ると、年率2・1%の成長となっています。労働力は0・4%増加し、労働生産性は1・7%伸びたことになります。この労働生産性の伸び率は、先進国の中でも高い水準です。では、先行きはどうでしょうか。今後、2%の経済成長を目標とする場合、労働生産性を過去の長期トレンドに等しい1・7%と見込んだとしても、年率0・3%の労働力の増加が必要になります。2040年でみると、600万人の増加です。前に述べたように、今後スウェーデンを上回るような女性の労働参加が進んだとしても労働人口は500万人減少するのですから、差し引き1100万人の外国人労働者が必要になります。現在の労働人口は約6500万人ですから、これは2040年には日本の労働市場の6人に1人が外国人となる計算です。一方、女性の労働参加があまり進まないと2000万人の外国人労働者が必要となる計算です。いずれも現実的な選択肢ではないでしょう。これほどの外国人労働者を受け入れずに2%の経済成長を実現するならば、女性の労働参加が進んだ場合で年率2・3%、あまり進まない賃金は全体として改善しているが企業規模による差が大きい資によって生産性を引き上げたり、仕入価格を引き上げて、取引先に収益を還元しつつ関係強化を図ったりすることも、経営判断の俎上にある選択肢になります。賃上げで人材確保を図るにせよ、設備投資で生産性向上を実現するにせよ、仕入価格引き上げで取引先との関係強化を図るにせよ、タイミングを逃さずうまく収益を使うことは、他社に競争力で差をつけることにつながります。すなわち、収益をうまく使うことは「早い者勝ち」という側面もあるのです。原油安と円安ではメリットが及ぶ範囲が異なる2%成長実現のハードルは上がっている誌上講演会3

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