所報4月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べいる。こうしたスタイルをあえて選んだ理由を沢根社長は、「価格決定権も無く、発注者の意向などに大きく影響される業界において、掲げた経営理念を実現するには、他社がやらない・やれない・やりたくない面倒な市場で生きていくしかない」と考えたからだ。 ちなみに同社の経営理念は「会社を永続させる」「人生を大切にする」「潰しのきく経営を実践する」「いい会社にする」「社会に奉仕する」だ。この5つの経営理念のもと、全社員参加型経営・大家族的経営を着実に実践し続け、49年連続黒字経営を実現している。 これまでに同社が開発し、生産・販売しているばね(ストックスプリング)は約5000種類。カタログやネットによる通販で全国各地に販売している。その顧客数は年々増加し、今や3万社以上だという。驚かされるのは、ある特定の企業や市場に過度に依存しないという「バランス重視」の経営だ。市場や取引先の分散を戦略的に進め、今やその取引比率は、最高でも8%、大半は1%以下である。 こうした独立独歩・社員重視の経営スタイルは、同社の付加価値や社員満足度を年々高めている。近年で わが国企業の約70%が赤字経営を余儀なくされている中、創業以来50年近く、社員の雇用を守り続けながら、一度も赤字になったことがない企業がある。その会社は「沢根スプリング」。主に各種ばねの製造をしている社員数約50人の、静岡県浜松市にあるユニーク経営で評価が高い中小企業だ。 昭和41(1966)年、現社長の父が脱サラし、一人でスタートした。現在の社長である沢根孝佳氏は2代目に当たる。この業界は、自動車や電子機器産業からの発注が多く、大半の企業は下請型・量産型だ。そのため、価格決定権が無く、発注者の外注方針に大きく左右される。 しかしながら、同社の経営スタイルはこれとは大きく異なる。具体的には、短納期ながらも「少ロット」「手づくり」といった、いわゆる多品種少量かつスピードを追い求めては、離職率はゼロ、社員1人当たりの月平均残業時間も、5時間程度という。わが国モノづくり産業の空洞化の危機が叫ばれて久しいが、どうすれば空洞化をしのぐことができるかを示すモデルとなる中小企業だ。あえて他社とは違う道を選んだ『沢根スプリング』vol.31コラムコラム16

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