所報8月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。ほかに、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ社員数約35人という規模でありながら、時代変化を読み、早くから自社製品を創造し、確保することにチャレンジしてきた。その結果、一部開発型のOEM商品もあるものの、扱っている商品の大半は自社製品だ。具体的には各種タオルペーパーや紙バンド、さらには産業用紙などである。主力のタオルペーパーは競合メーカーが多いが、同社は、多品種・短納期・少量生産が得意だ。扱う製品は、サイズ・デザイン・厚さなど、その種類だけで数十種類に上る。小回りが利き、これほどトータルに価値提案ができる企業はそうそうない。 第2点は、新市場の創造に注力してきたからといえる。現在、小ロット・多品種という面倒なタオルペーパーについては、市場の優位性を確保しているが、将来のことを考えると、この商品だけでは安心できない。そこで、もう一つの柱にと、注力しているのが、「紙バンド」の用途開発である。この目的達成のため、26年には「蛙屋株式会社」と「キラウス株式会社」を新たに設立している。前者はこれまでに開発した数十種類の紙バンド製品の普及と販売を国内外に情報発信する小売店。後者は「紙バンド&カフェ」をコンセプトに、紙バンドクラフトを楽しむ工房的喫茶店だ。つまり「場・こと」の創造による市場の創造に取り組んでいるのだ。紙バンドは24年にスタートし 平成24年の「経済センサス」によると、全国に「パルプ・紙・紙加工品製造業」の事務所が1万1927カ所、存在する。その多くは輸入品の増大や、低価格化などにより衰退傾向が著しい。事実、過去の調査をみると、13年が1万5272カ所となっている。このおよそ10年間で、3345カ所、率にして22%もの事業所が消滅していることになる。 こうした中でユニークな経営を展開し、見事に構造的不況業種という壁をブレークスルーしているのが、わが国有数の紙の生産地である静岡県・富士市に本社を構える「紺屋製紙」という企業だ。 なぜ同社が元気なのか、理由は多々あるが、ここでは2点に絞り紹介する。まず第1点は自社商品開発に注力してきたからといえる。富士市にある製紙関係の工場の多くは、かつてこの地に有力な工場が多数集積していたということもあり、大半はいわゆる下請工場である。しかしながら、同社はた新規事業ではあるが、既に売上高の約5%にまで高まり、今後のさらなる拡大が見込まれている。 こうしたことができるのも、歴史的に「社員を路頭に迷わせない経営」「社員満足度の高い企業」を軸に経営を行ってきたからに他ならない。「変化無くして成長なし」と良く言うが、同社の存在はまさに「変化・革新」の結果といえる。変化・革新を続ける紺屋製紙vol.35コラムコラム16

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