所報3月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。ほかに、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ模を大きくするといった言葉は一言もないのだ。 近年、社是や経営理念で立派なことを掲げている企業は増加傾向にある。しかし、その目的を果たすための実際の行動はと言うと、首をかしげたくなる企業が正直に言って多い。その一方で、同社は創業以来、愚直一途に、掲げた使命と社是に基づく経営を続けてきたのである。 その一例を紹介する。それは、あの東日本大震災時の対応ぶりである。あの大地震で、マルトも、ほとんどの店舗で商品が散乱し、店舗の壁が損壊するなど、10億円以上の被害に遭った。そればかりか、通信網も甚大な損害を受け、本社と店舗の回線も不通となってしまったのだ。しかしながら、マルトの店舗は、あの3月11日の大地震直後の16時には、1店舗が営業を再開、翌12日には、残りの大半の店舗も再開した。被災を免れたり、大きな損害の無かった店舗の社員が自主的に出社。安全な場所で着の身着のまま、店舗の周りに集まって、地域住民のために店舗を再開したのである。 聞くと、全国チェーン店でも、再開するまで数週間を要しており、この対応の速さは異例で、地域住民も絶賛したという。そればかりか、自宅が倒壊し、困っている地域住民のために店舗を開放したという。いやはや驚くべき対応である。 以前、なぜこんなにも早く再開できたのかを、店舗のスタッフから聞いたが、そのスタッフは次のように答えてくれた。「寒く不安な中、店の前に飲料 福島県いわき市に「株式会社マルト」という会社がある。主な事業は食品スーパーやドラッグストアの経営。福島県と茨城県が主な営業エリアである。 非正規社員を含め2000人を超える社員を擁しているにもかかわらず、徹底した地域密着で依然創業の心を大切にしているのが特長である。いわき市では、食や薬で「マルト」の存在は非常に大きく、欠かせないものとなっている。 また、その業績もすこぶる好調で、この10年間でもリーマンショックの影響が大きかった平成22年を除き、その売上高は右肩上がりである。好調な要因は多々あるが、あえて一つだけに絞ると、「三方良しの経営」が創業以来貫かれているからである。 同社の事業目的は「マルトの使命」として明確に示されている。そこには、「マルトは地域のライフラインを守ることが使命と誇りです」とある。また、社是には「商売とは心からありがとう、といってくれるお客様という名の友人をつくること」とある。事業目的には、業界で一番になるとか、規や薬、そしてトイレットペーパーやオムツなど、生活必需品を求めて列をつくっている友人であるお客さまの姿を見て、自宅から吹っ飛んできました。ただただ役に立ちたい一心でした。『マルトの使命・マルトの社是』通り行動をしただけです」と。「正しい経営は決して滅びない」を証明してくれるいい企業である。地域のライフラインを守った『マルト』vol.41コラムコラム16

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