所報5月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べも仕事に面白さ・楽しさが感じられなくなっていったという。 そして、1999年、ついには当時の稼ぎ頭の宅配ピザ店を分離独立させるとともに、経営の在り方・進め方を社員皆で考え直した。さらに議論を重ね、全社員で事業領域を新たに策定し直した。それが「ちょっとぜいたく、ちょっとおしゃれな食文化の提供」だ。 また、これに合わせ、経営ビジョンも策定している。「お客さまが自分のお友達に紹介したくなるお店にします」「私たちは笑顔で楽しく誇りをもって働ける会社にします」「私たちとその家族、そして地域社会にとってなくてはならない会社にします」「ホスピタリティーベーカリー・ピーターパン 永続100年 100店舗を目指します」。 その意味では、現在のピーターパンの実質的な創業は1999年といっても良いだろう。 事業領域を明確にするとともに、全社員が参加しての経営ビジョンの策定や、それを「社訓」にした「全社員参加経営」「超ガラス張り経営」「感動創造経営」の実践により、同社はよみがえっていく。事実、その後、今日までの同社の成長発展は見事である。 当時、従業員数20人、売上高約3億円、店舗数2店舗だったものが、今日では、従業員数はパートナー社員を含め325人、売上高23億円、店舗数も6店舗にまでなっている。今や学生にも人気企業で、15人程度の採用枠に毎年500人前後の大学生が殺到するという。 千葉県船橋市に本店を持つピーターパンというお店がある。主事業はパンの製造・小売りだ。ちなみに社名は、子どもから大人まで親しみを持ってほしいという思いから名付けた。 創業者は現社長の横手和彦氏である。横手氏の経歴は多彩で、学校卒業後に、ある銀行に就職するも仕事が合わないと2年で退職し、その後はバーを経営。渋谷や麻布など一等地に出店したお店は大繁盛していた。しかし、ある日、母親と店に立ち寄った娘さんの「お父さんは、お客さんとお酒を飲んでいるだけでちっとも仕事をしていない」という一言で、店を他人に譲っている。 「娘に誇れる仕事をせねば」と奮起。知人からパン屋になることを薦められ、パン屋で修業をした。そして、6カ月間の修業を終え、1977年、現在のピーターパンを創業している。パン屋を経営する傍ら、宅配ピザ店を開業するなど、事業領域を拡大していったこともあり、売り上げは増加していった。しかし、社内の雰囲気は良くなかった。ギスギス感が高まり、離職する社員も多数。経営者である横手氏自身 また、驚かされるのは、その業績だ。多くのパン屋さんが苦境にあえぐ中、同社の売上高は18年連続増収、その利益率も業界平均の3倍以上、1日の1店舗当たり買い物客は1000〜2000人という。余談だが、JR船橋駅構内にある売場面積わずか5坪のお店の1日当たり売上高はなんと70万円、また知る人ぞ知る同社の「メロンパン」の1日当たり販売数量は約10万個という驚くべき数字なのである。不況知らずの元気なパン屋さん『ピーターパン』vol.43コラムコラム16

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