所報4月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。坂本光司法政大学大学院政策創造研究科 教授 学べに快進撃企業快進撃企業 JR高崎駅から車で20分ほど走った巨大なショッピングモールの隣に、小さな食品スーパーがある。派手な広告物もなく、よく気を付けていないと、通り過ぎてしまうほどだ。 店舗面積はわずか145坪、1店舗主義であるが、この小さなスーパーに、まるでファンのような顧客が東京圏はもとより、遠くは新潟県や長野県からも日常的にやって来る。そればかりか客単価は平均の2倍以上、中には1回の買い物で2万円以上使う顧客もいるという。それは、なんといっても同店が仕入れ販売している商品に魅力があるからで「こだわり商品を扱う スーパー・まるおか」ある。 ちなみに、同店で扱っている商品は約6000アイテムであるが、その中に全国どこのスーパーでも売られている、いわゆるNB(ナショナルブランド)商品は全く存在しない。販売されている商品は、同店の丸岡守社長をはじめとする全スタッフが「当店のお客さまにこそ食べてほしい」と、厳選した全国各地の逸品ばかりである。明るい店舗の中に入ると、壁には「食は命 食べるものは安さや便利さだけで選ばない、命をつなぐ大事なもの」「テレビCMにだまされないでください。自分の舌と頭で判断」などと筆書きされた大きな張り紙が目に付く。 丸岡社長は、「大手販売店の商品は、低価格を意識するあまり、原価を圧迫するきらいが強く、生産者の苦労を無視していると思います。ですから、当店では産地などの仕入れ先から一切値引きをしません。またNB商品の多くは、大量生産であるが故、効率を求めるあまり、味は重視するものの、安全・安心に注力する側面が弱くなるところが目立ちます。ですから、当店では全国各地で少量しか生産されない商品で、多少価格が高くても、本物でおいしく、安全・安心、健康な商品を発掘し、そこに理解があるお客さまを育てたいです」と話す。こうした経営姿勢が顧客に理解されるまでにしばらく時間を要したが、努力が実り、今やチラシ広告などを一切出していないが、口コミで同店の人気が広がっている。 先日、社会人大学院生たちと同店を訪問してきたが、明るい店舗の棚には、ほかのスーパーでは見たこともないような逸品が所狭しと並んでいた。その中には、日本で唯一の無殺菌牛乳である北海道の「想いやり生乳」が720mlで1, 620円、フランス産「グラスフェッドバター」は250gで2, 580円で販売されていた。より驚いたのは、「当店では○○を除くマーガリンは販売しません」とか、「当店では○○コーラは販売しません……」といった張り紙であった。いやはや驚くほどのこだわりのお店である。vol.52コラム16

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