所報8月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ 1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長。他に、人を大切にする経営学会会長はじめ、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。坂本光司法政大学大学院政策創造研究科 教授 学べに快進撃企業快進撃企業 全国には視覚障がいのある方が約32万人いる。このうち約3分の1の11万人は最も重い1級の障がい者である。加えて言えば、32万人の視覚障がい者のうち約7万人は、身体障がいや知的障がいのある、いわゆる重複障がい者である。 障がい者の民間企業での就労は厳しいが、とりわけ視覚障がい者は特に難しい。現在、民間企業で就労している視覚障がい者はわずか1万7000人と、視覚障がい者全体の5%程度にすぎない。 こうした現状を見かね、立ち上がった団体がある。それは浜松市にあるNPO法人「六星(ろくせい)」で「視覚障がい者が頑張る『六星』ある。創業は1996年、日本で初めての視覚障がい者のための小規模授産所「ウイズ」としてスタートし、2006年に現在のNPO法人に組織替えをしている。 創業時は、働く場を強く求める6人の視覚障がい者と4人の職員の計10人であった。苦労と努力が実り、現在では「ウイズ半田」と「ウイズ蜆塚(しじみづか)」という2カ所の拠点に、51人の視覚障がい者と12人の職員が助け合いながら就労する、わが国最大規模の視覚障がい者の就労施設にまで成長、発展している。 同社の主事業は「白杖」「点字名刺」「点字広報誌」「ラベンダーのポプリの小物製品」「マグネットグッズ」「竹炭フクロウ」「手すきのはがき」「布草履」、そして「たわし」など、10数種類の商品の生産・販売である。驚かされることは、これら商品はいずれも視覚障がい者と職員が知恵を出し合い、開発した物ばかりである。 六星のリーダーは斯波(しば)千秋代表理事である。視覚障がい者やその親御さんとの出会いの中で、「家から出ず・出られず・出してもらえず……」という生活実態を知り、あえて立ち上がったのである。 先日、社会人大学院生たち10数人で六星の一つの拠点「ウイズ蜆塚」を訪問させていただいた。そこでは20数人の視覚障がいのある方々がさまざまな仕事に取り組んでいたが、私たちの目がくぎ付けになったのは83歳の女性の仕事ぶりであった。 あの小さな針の穴に糸を通し、そして玉をつくり、布草履を縫い始めたのである。親指のあちこちに血がにじんでいたが、「お金を払ってもいいから、ここで働き続けたい」とニコニコ顔で私たちに語ってくれたとき、筆者らは目頭を熱くした。聞くと73歳で視力を失い、一人暮らしで自宅に閉じこもっていたが、斯波代表理事たちの懸命なリハビリ訓練で再び勇気と希望を取り戻し、一日3時間働いているという。 こうした頑張る企業の存在を見せつけられると、私たち健常者はまだまだ努力が足りないと言わざるを得ない。vol.56コラム16

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