食べ物をおいしくする3つのこつと消費者との関係のつくり方トレンド通信 書知的障害者故に試験を受けたことも比べられたこともなく世俗の埒外(らちがい)で育った、純度の高い魂を持つ翔子の書には誰もかなわない。 大泉洋さんや安田顕さんたちが結成した北海道出身の演劇ユニットTEAMNACS(チームナックス)の一員、俳優の森崎博之さんにお話を伺う機会がありました。森崎さんは出演するテレビ番組や舞台などを通じ、農業や農家を応援する活動に長く取り組んでいます。北海道ローカルで農業と農家を取り上げるテレビ番組に17年間にわたって出演し、700件以上の現場取材経験から農業の将来に危機感を持っているのです。番組の中で採れたて野菜のおいしさを知ってもらうため、トマト嫌いの子どもたちをトマト農家に連れて行き、もぎたてを食べてもらったことがあるそうです。どの子も「自分が知っているトマトと違う」と感じ、さらにそのうちの一人が「こんなおいしいものをつくれる生産者はかっこいい」と思って、その後農業高校から酪農関係の大学へ進んで農業経営を学び、現在は地元の生産者支援の仕事に就いているそうです。つくられている現場を知り、実際につくっている人に話を聞いて食べる経験が、子どもたちのトマトへの苦手意識を払拭したといえるでしょう。 「野菜(食材)をもっとおいしく食べるために大事な三つのこと」を森崎さんは消費者に伝えたいと言います。それは「知ること」「感謝すること」「応援すること」で、「知ること」は、トマトならトマトで、どんな種類があるのか、どうやってつくられているか、どんな調理法があるか、どんな歴史や地域性があるかなど、モノ自体をもっと深く知ってもらうことです。 「感謝すること」は、それがどんな人によってつくられているか、どんな人がここまで運んでくれたか、どんな人が料理してくれたかなど、自分においしさと健康をもたらしてくれたヒトに思いをはせることです。 三つ目の「応援すること」は、消費者自身が感じたおいしさや健康などの体験が広く次の世代へと受け継がれていくよう、食べることはもちろん、自分が経験したことを誰かに伝えるといった、つくり手を応援する行動を何か起こしてほしいということです。 この三つの要素を、広くモノやサービスを提供している■つくり手■側の目線でいえば、商品やサービスの良さを消費者に伝え、さらに商品やサービスが生まれて消費者に届くまでのストーリーもしっかり伝えることに相当するでしょう。 三つ目の「応援する」は、消費者との関係を強めることを意味します。これは消費者自身が生産に関わるクラウドファンディングや、環境保護や事業支援などを目的にしたエシカル消費などの最近のトレンドと合致した考えです。つくり手の立場から、消費者を巻き込む、コアなファンづくり、インフルエンサー育成といった表現をされることもあります。 森崎さんは「農業の大変さや将来への不安が報じられますが、それはどの業種でも同じことが起きています」と言います。農業の課題は日本の産業全体の課題であるようです。魂に響く#20コラム書道家かなざわ しょうこ日経BP 総合研究所上席研究員わたなべ かずひろ渡辺 和博5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始めた。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、国内の神社仏閣や美術館のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受章した。■公式ホームページ https://k-shoko.org/■Instagram https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/日経BP 総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。経営コラム18金澤 翔子
元のページ ../index.html#20