所報5月号
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■プロフィールを教えてください。■先生の研究について教えてください。今回は愛媛大学において特徴的な先端的研究を推進しているアジア古代産業考古学研究センターセンター長・教授の村上恭通氏にお話を伺いました。■今後の展開について…。〜文化資源を生かした持続可能な社会づくり〜考古学が拓く地域振興の新たな地平 出身は熊本県です。幼少時代から地面に転がっている土器や石器に関心を抱き、拾っては楽しんでいました。中学生になったばかりのある日、畑で土器や石器を採取している福田さんという方と出会いました。福田さんは熊本の考古学界では知る人ぞ知る古代の遺跡等を熟知した有名な方です。福田さんの後をついて回り、熊本県のあちこちへ赴いては土器や石器を採取し、また当時の技術をもってそれらを復元する楽しさを覚えました。福田さんと出会っていなければ、今の私はないと思っています。熊本大学文学部へ進学してからは中国やロシアといった大陸の考古学に関心を持つようになり、卒業論文では大陸の鉄の歴史をテーマに研究を行いました。卒業後は鉄の考古学のメッカと呼ばれていた広島大学の門を叩き、大学院で5年間学びました。 鉄や銅に関する古代生産技術研究が主ですが、その一方で越智郡上島町を舞台とした古代塩業の研究があります。上島町の弓削島には、中世、京都の東寺に塩を貢納した荘園が置かれていました。佐島の宮ノ浦(みやんな)遺跡では古墳時代、古代、中世と1000年にわたる塩作りの痕跡を発見しました。遺跡の情報をもとに私たちが復元した古代製塩技術で、今、弓削では「弓この島の塩が有名になり、さらには古代塩業体験場を整備するなど観光資源化して地域活性につながればと期待しています。また、アジア古代産業考古学研究センターでは、金属などの必需物資を生産した産業遺跡の解明を目的として、ウクライナ、ロシア、カザフスタン、モンゴル、中国といったユーラシア大陸各地で発掘調査を行ってきました。対象とする遺跡は現代風にいえば産業廃棄物置き場ですが、私にとっては宝の山で、それらから古代の製鉄技術を復元します。幸運にもわが国では「たたら」の技術を国選定保存技術保持者(村下)が現代に伝えており、私たちにも多くの学びを与えてくれます。ところが海外では製鉄技術伝統は継承されていません。このように恵まれた環境を背景に、日本、世界の古代製鉄に関する情報を得て、技術や装置を復元し、古代製鉄の可視化を目指しています。今後も他分野との融合を模索しながら、太古の人々の生活・環境を明らかにしたいと考えています。また、これまで地域住民、行政との関係を重視し、官民学で三位一体となって文化資源をめぐる活動を推進してきました。しかしながら、人口減少による地方の衰退が避けられないなか、三位一体でカバーしきれ削塩」が作られています。今後、もっとない文化資源領域への対応に、これからは官民学に加えて産が加わり、四位一体での新たな仕組みを作る必要があると感じています。文化資源は人間の内面を豊かにするものですが、内面の豊かな人間がいなければ健全な社会は構築できないと思います。地域の文化資源の枯渇を防ぎ、そこに住む人が、とくに子どもたちが地域を好きになるような社会づくりを目指したい。そのためには今後、産業界の知恵が必要であり、そんな取り組みをこの愛媛から盛り上げることができればと思っています。 0⬜⬜⬜⬜⬜⬜⬜当会議所では、地域産業の活性化を目的に、会員企業と大学の連携を推進中です。愛媛大学研究・産学連携推進機構の協力のもと、毎月、愛媛大発のホットな情報を提供!コラム国立大学法人愛媛大学アジア古代産業考古学研究センターむらかみ やすゆき村上 恭通 センター長・教授座右の銘は「身土不二」。土地があって人は生きている。国内外を問わずこの想いでその土地の方と接しながら発掘作業をしている。趣味は、映画鑑賞と10代からやっているベースギター。弦をつま弾きながら、アコースティックの低音に遠き時代を思い、つかの間のリラックスした時間を過ごしている。第138回16

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