地域に開かれた社員食堂が見せているものトレンド通信同じ出来事に天国を見る人と地獄を見る人がいる。 翔子はいつも楽しいことだけを見るからいつだって至福の存在。 紀伊半島の南紀白浜空港(熊野白浜リゾート空港)のすぐそばにあるレストラン「くおり亭」を訪ねてきました。こちらは、クオリティソフトというIT企業の社員食堂で、一般の客も利用できるお店になっています。とても人気があり、私が訪れた時も、開店時間にはすでに10人ほどが行列をつくっていました。日替わり定食は700円で、白米のほか2種類の玄米やおかゆも選べ、メインディッシュとサラダ、小鉢、スープが付いています。全体的に健康に配慮した素材や味付けで、野菜や米などに地元食材がふんだんに使われています。利用している一般客は、地元のシニア層や女性の一人客、出張で当地を訪れたビジネスパーソンなど、さまざまです。時によっては、食堂の一角でランチタイムコンサートなどが開かれているそうです。 この食堂を運営するクオリティソフトは、セキュリティ管理ソフトなどを手掛ける1984年創業のIT企業で、白浜本社のほか、東京、大阪、仙台に支社を持っています。社員食堂がある本社は太平洋を見下ろす高台にあり、もともとリゾート保養施設だったというロケーションです。東京で創業しましたが、創業者の出身地である和歌山県熊野地域の白浜町に本社を移転し、社員食堂も置いたというわけです。 実は、白浜町はもともと温泉リゾート地として知られていますが、現在は「ワーケーションの聖地」と呼ばれています。自治体の強い後押しもあって環境を整備した結果、セールスフォースや三菱地所など大手企業がいくつもサテライトオフィスを構えています。ワーケーションは、仕事(Work)と休暇(Vacation)を組み合わせた言葉で、普段の職場とは異なる場所で仕事をする働き方です。コロナ禍をきっかけにテレワークが普及したことで、広く知られるようになりました。 社員食堂を一般客にも開放するという試みは、全国各地で多く見られます。地元の食材を利用するだけでなく、料理の提供自体を地元の事業者が交代で受け持つといった例もあります。企業が工場や本社のある場所で、自社の商品を販売したり、製造現場を見せたりする施設を持つことは珍しくありません。ただ、社員も利用する場所を一般に公開する社員食堂と、商品を直売することや工場見学とは、役割や効果が違うと感じます。 直売店や工場は、あくまでも企業と顧客の接点であるのに対して、社員食堂は、企業とそこで働く人との接点です。つまり、自社の商品やサービスよりも、会社が従業員に対してどのような考え方を持ち、それを具体的にどのような形で提供しているかを見せているといえそうです。 現在、ほとんど全ての業種業態で人手不足が問題になっています。大手企業であっても人材の確保と定着は避けて通れない課題です。開かれた社員食堂を通じた、一般社会への情報発信はとても大きな意味を持つと思います。﹁楽﹂魂に響く#21地域経済アナリストコンサルタントわたなべ 渡辺 和博書道家かなざわ しょうこ かずひろ5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始めた。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、国内の神社仏閣や美術館のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受章した。■公式ホームページ https://k-shoko.org/■Instagram https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/合同会社ヒナニモ代表。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌の編集を担当。その後、日経BP 総合研究所 上席研究員を経て、2025年4月から現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。経営コラム金澤 翔子18コラム□□□00書
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