所報6月号
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リレーコラム 第24回大変革チャンス「最低賃金の上昇と仕事の未来」チェンジの時代にを掴む5コラム 「知り合いに見られるから、営業中の仕事はできません」 私が新規オープンから責任者として携わった、とある小売店の朝パートが発した言葉だ。開店前の清掃業務に従事するメンバー(5名)に、週に1度、昼パートのメンバーが休みの日に、営業時間中の清掃業務を代わりにできないかとお願いした時のこと。残念ながら5名とも同じ回答だった。時間延長が無理なのではなく、清掃作業をする姿を知り合いに見られるのが「恥ずかしいから」が理由だった。メンバーに悪気があったわけでは決してない。ただ、私が生涯をかけて取り組むと決めた仕事は、世間的には「人に見られるのが恥ずかしい仕事」なのかと強く考えさせられた。今から21年前、西村直樹 昨年10月、石破首相は2030年代半ばを目標としていた最低賃金の全国加重平均1500円を、2020年代中に前倒しすると発表した。この方針だと、愛媛県では2029年10月に1400円に達する見込みとなる。 最低賃金の上昇に加え、労働者不足となれば、今後様々な分野においてAIやロボットの導入が加速するだろう。清掃の現場でいえば、清掃ロボットがこれまで以上に普及する。すでに都会で活用されている清掃ロボットが、地方ではなかなか導入が進んでいない理由は「費用対効果がない、むしろマイナス」だから。単純に人が作業したほうが安く、大幅なシフト変更を強いられるため、ロボットの導入になかなか踏み切れないのだ。ところが、最低賃金の上昇に合わせて作業員の時給単価が上がり、相対的にロボットの費用対効果が大きくなるにつれ、人が行う作業は徐々にロボットに代替されるようになるだろう。 では、人が行う作業は全てテクノロジーに置き換わるのだろうか。 私は、AIやロボットが加速度的に進化する時代だからこそ、人のもつ温かみや気遣い、非合理だけれど譲れないこだわりや熱量、また臨機応変さが価値を持つと考えている。機械化で生産性を上げるとともに、人間的な特色が付加価値を生む、いわば「人間力」が問われる時代となるのだ。 もちろん、言われたことを日々そつなくこなすだけのルーチンワークは、数年でテクノロジーに駆逐される。低賃金で均一なサービスを提供する人材は厳しい時代に直面するだろう。だからこそ、今の仕事に目的意識をもち、顧客に期待以上の価値を提供するという意識を社員全体に浸透させることが経営者の仕事であると考えている。 そんなプロフェッショナルな仕事を全うしたとき、「人に見られるのが恥ずかしい仕事」から、「誇りある仕事」に変わると信じている。言うは易く行うは難し。それでも自分の仕事を一歩ずつ果たしていきたいと思う。松山商工会議所企業と産業のイノベーション委員会副委員長西村 直樹26歳の夏のことである。

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