進むアルコール離れと『ソバーキュリアス』と『モクテル』の可能性トレンド通信「風はどこ行くの?」と翔子が問う。夕暮れに涼風が通り過ぎていく。目には見えない風はいったい那辺(なへん)へ行くのだろう。 九州で早々と梅雨入りしたように、今年も夏が長く暑くなりそうです。気温の上昇度合いによって、飲料やアイスクリーム、シャーベットなどの氷菓子、そうめんやそばなどの売り上げは大きな影響を受けます。先日、観光と食と地域活性化を研究している日本フードツーリズム学会のセミナーで、ツーリズムとソバーキュリアスをテーマにしたセミナーを聴きました。ちょっと耳慣れない言葉ですが、「ソバーキュリアス」とは、しらふを意味する「ソバー(sober)」と強い関心を意味する「キュリアス(curious)」を合わせた造語で、お酒を飲まない、あるいは酔わないライフスタイルを指しています。健康上の理由や味覚の問題でお酒を飲めない、飲まない、あるいは禁酒している、というよりも、「飲めるけれど今日はやめておこう」というように、意識的に自分自身をコントロールするといったニュアンスが強いようです。 セミナーでは、文教大学の青木洋高先生が、旅行者と飲酒の関係に関する意識調査結果などを含めて考察を発表していました。興味を引いたのは、若者のビール離れに象徴されるように、国内外を問わずお酒をあえて飲まない、飲めない層が拡大していて、観光業や飲食業にとっても変化を迫られている点です。中でも、旅行先などでご当地のグルメを楽しむ際、居酒屋やレストランなどを利用するのに余分な気遣いをしてしまう人がいることでした。お酒を頼まないと居心地が悪く、「店を早く出てしまった」「不要なのに飲み物を頼んだ」という人もいます。また、「アルコールの入っていないおいしい飲み物があれば、お酒と同じような値段でも注文する」と答えた人が多くいるそうです。 大手ビールメーカーを中心に、ノンアルコールのビールやチューハイ、日本酒、梅酒などが多く発売されているほか、通常のビールよりもアルコール度数を抑えて酔い心地を軽くするビールも発売されるようになりました。しかし、まだ飲食店では、ノンアルコール飲料はメニューの後ろの方に少ないスペースで掲載されることが多いようです。セミナーでの発表によれば、フランスの高級ホテルのバーでは、ノンアルコールのカクテルがメニューの目立つ場所に大きく掲載されるようになりつつあるとのことでした。 見た目も華やかでさまざまな工夫ができるカクテルが、単に既存ジャンルの飲料のノンアル版よりも、高く価格設定できる可能性があるということで、飲食業界では開発や創意工夫に熱意が注がれているそうです。こうしたノンアルコールのカクテルは、「モック(模型)」のカクテルという意味合いを込めて「モクテル」と呼ばれています。 健康意識の高まりや飲酒に対する若者のコスパ意識の変化から、ノンアル市場は広がり、さまざまな商品やサービスが登場すると予想されます。こうした市場に対応するには、「とりあえずビール」といった習慣で培われた市場を画一的に捉える”昭和なマインドセット“から脱却し、個々の人生観を尊重する考え方へ切り替えることが大切なのだと思います。 ﹁彼方へ﹂魂に響く#22コラム5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始めた。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、国内の神社仏閣や美術館のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受章した。■公式ホームページ https://k-shoko.org/■Instagram https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/地域経済アナリストコンサルタントわたなべ 渡辺 和博 かずひろ合同会社ヒナニモ代表。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌の編集を担当。その後、日経BP 総合研究所 上席研究員を経て、2025年4月から現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。書道家かなざわ しょうこ経営コラム18金澤 翔子書
元のページ ../index.html#20