■プロフィールを教えてください。■紙産業イノベーションセンターの設立経緯と研究内容を教えてください。今回は愛媛大学において特徴的な先端的研究を推進している紙産業イノベーションセンターセンター長・特別栄誉教授の内村浩美氏にお話を伺いました。■今後の展開について。〜大学と企業の連携で進むオープンイノベーション〜愛媛から拓く紙産業の新時代 出身は鹿児島県です。大学は高知大学へ進学し、そこで出会ったのが「紙」でした。土佐和紙の原料の一つである「三椏(みつまた)」の研究に携わり、パルプ化に関する技術で特許を出願するレベルにまで研究を進めました。この研究がきっかけとなり、大蔵省印刷局へ入局しました。研究所勤務時代には、2004年に発行されたお札の研究開発に深く関わり、数々の偽造防止技術を開発しました。2009年に愛媛大学から「紙産業コース」立ち上げに関する相談があり、2010年に愛媛大学に移籍しました。 センター設立のきっかけは、大学院修士課程「紙産業特別コース」でした。社会人学生に自社の技術課題を研究テーマとして設定させたところ、驚くほどの成果が上がり、多くの学生が特許を出願するレベルに達しました。そして、出願した特許は全て登録されました。この成果が評判を呼び、地元企業から共同研究の依頼が殺到し、大学として組織的に対応するためにセンターが設立されました。 センターから生まれた技術に、ボールペンの文字を24時間以内なら消しゴムで消せて、それ以降は消せなくなるタイマー機能を付加した「インク消去機能紙」があります。書き間違いの利便性と、時間が経てば改ざんできなくなるセキュリティ性を両立させた世界初の技術です。他にも、セルロースナノファイバー(CNF)を使って軽くて丈夫な自動車のボディに活用できるCNFシートの開発や、診断・検査に利用可能な簡易検査キット基材の開発などを行っています。 電子化や人口減少で紙の需要は減っています。紙を単なる製品ではなく、自動車や医療、電子部品といった紙産業以外の産業分野へ展開する素材として捉え直し、新たな価値を創造することが重要です。大学が中心となり、産業界のニーズを基に技術開発を行い、地元の製紙メーカーに繋ぐ産学官連携モデルを構築しています。現在、新たなオープンイノベーション拠点を建設中です。複数の企業が集まり、互いの技術を補完しながらスピーディーに開発を進めていくことを目指すなど、日本の紙産業を次のステージへ導いていきたいと考えています。 当会議所では、地域産業の活性化を目的に、会員企業と大学の連携を推進中です。愛媛大学研究・産学連携推進機構の協力のもと、毎月、愛媛大発のホットな情報を提供!コラム国立大学法人愛媛大学特別栄誉教授紙産業イノベーションセンターセンター長(兼)社会共創学部(兼)大学院 農学研究科 教授うちむら ひろみ内村 浩美モットーは「可能性にチャレンジしよう」。原理や知識も必要だが、知恵を加えれば新しい技術や製品を開発することができる。趣味は温泉巡り、ドライブ、旅行。学生時代にテント生活をしながら高速道路を使わず、約40日間で日本を縦断した経験を持つ。第143回16
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