所報2510_電子BOOK
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シニア世代のマインドがまちの活気を左右するトレンド通信く書気が付かれないかもしれない優しい想いは、それでもその人の心の中に灯り、またいつか誰かを照らすでしょう。 空き家をリノベーションしておしゃれな店がどんどんつくられ、移住者が増えている地方都市があるというので訪ねてきました。長野県の小諸市は人口約4万人。県の東部に位置し、御代田、軽井沢を挟んで群馬県から東京に通じるルート上にあります。北陸新幹線では、軽井沢駅と上田駅の間の佐久平駅が最寄りとなりますが、佐久平は小諸市ではなく隣の佐久市にあります。ちょうど新幹線が小諸市を避けるようにぐるりと南に回り込んでいる格好です。近年は新幹線が通る佐久市に大型商業施設ができたこともあり、在来線の小諸駅を中心とする市街地にはシャッター店舗が目立つようになっていました。そんなまちがこの数年で活気を取り戻し始めています。行政と市民が連携して空き家などに移住者を積極的に受け入れ、おしゃれな店舗を次々と誘致する「おしゃれ田舎プロジェクト」を始めたのです。その結果、ここ数年で、このプロジェクトを経由して約30店舗、それ以外のルートを合わせて70ほどの新しい店が小諸に生まれています。レストランやカフェ、花屋、雑貨屋、洋裁店、パン屋、ハム・ソーセージの専門店、ゲストハウスなど、その内容も多彩です。 そんな移住者が開いた店の一つであるパン屋「保時鳥(ホトトギス)」の平井さんに話を聞きました。横浜の食料品を扱う店で働いていましたが、いずれ製造方法や原材料にこだわった付加価値の高いパンの専門店を開業したいと考えていたそうです。東京・有楽町にある長野県の移住相談窓口で、やりたいことを話すと小諸市を紹介されました。 移住・開店に当たっては下見に訪れた1日で、物件だけでなく改装業者や先に移住した先輩たち、地域の金融機関の担当者なども紹介してもらったそうです。石材店を改装した店舗に新たに石窯を設置し、長野県産小麦と天然酵母を使うパン屋を2023年3月に開業しました。週末しか営業しませんが、いまや市内だけでなく軽井沢や上田といった周辺地域からもお客さんが訪れる名店となっています。 この店の近くにある地域の交流拠点「北国街道与良館」にボランティアで駐在している地元シニアの皆さんに、保時鳥についてどう思うかを聞いてみました。売り方も品ぞろえも価格設定もそれまで地元にあったパン屋とは大きく違うため、当初ビジネスが理解できず戸惑いもあったようです。しかし店主の平井さんとは家族や親戚のようにいつも親しく付き合い、「とても感じのいい若い世代の仲間で、地元に新しい活気を運んでくれて感謝している」と言います。 地域によっては、シニア層が移住者の事業の足を引っ張ったり無視したりする所もあるようです。小諸市は、もともと商業集積地でいろいろな人が出入りすることに慣れていました。移住者をまちの貴重な戦力だとリスペクトする地域のシニア層のマインドが、次々と新しい店がつくられ、活気が生まれる要因の一つになっているのだと感じました。﹁想﹂魂に響 #25地域経済アナリストコンサルタントわたなべ 渡辺 和博書道家かなざわ しょうこ かずひろ5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始めた。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、国内の神社仏閣や美術館のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受章した。■公式ホームページ  https://k-shoko.org/■Instagram https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/合同会社ヒナニモ代表。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌の編集を担当。その後、日経BP 総合研究所 上席研究員を経て、2025年4月から現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。経営コラム金澤 翔子18コラム□□□00

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